2020.11.14

CARS

100%メイド・イン・イタリアのスーパースポーツカー、その名はMC20! マセラティ新時代の幕開け!

9月9日、イタリアのモデナを主舞台、東京とニューヨークを副舞台として、お披露目されたマセラティMC20。その詳細をリポートする。


日本時間の2020年9月10日午前3時半、私は東京タワーの真下に置かれたマセラティ・レヴァンテの中にいた。まわりにもたくさんのマセラティ車が停車し、それぞれに一人ずつの雑誌編集長やジャーナリストが乗っている。クルマのノーズが向く先にあるのは巨大なスクリーン。そこにはマセラティのエンブレムである三叉の矛と、この日からこれまでのブロック体に換えて新たに筆記体となったブランド・ロゴが映し出されている。


東京では、東京タワーの下に特設スクリーンが掲げられ、ゲストは並べられたクルマの中から中継を見るコロナ時代の新形式を採用。モデナのイベントでも同様に、舞台に向かってクルマが並べられ、ゲストはその中から見学した。

やがて、画面が切り替わってイタリア・マセラティ本社のダビデ・グラッソCEOが登場。短い挨拶のビデオ・メッセージが流された後、マセラティの本拠地モデナの郊外にあるサーキットに設けられたイベント会場が映し出された。その舞台の周囲にも、ドライブイン・シアターさながら、舞台にノーズを向けてゲストたちが乗った新旧のマセラティ車が並んでいる。


上の大きな写真は、イタリアのモデナにあるサーキットで開かれた発表会風景。その模様は、東京とニューヨークで同時に開かれた発表イベントで中継された。

イタリア時間の9月9日午後8時半すぎ、音と光と映像とダンスによるショウが繰り広げられた後、マセラティの新時代の幕開けを飾るスーパースポーツカー、MC20がお披露目された。その模様を映し出すスクリーンを眠たい目を擦りつつ眺めながら、コロナ禍さえなければ、自分もモデナでこの舞台を目の当たりにしていたのに、と少し恨めしい気分になった。昨年11月、モデナの本社と工場を訪問し、最後のグラントゥーリズモのラインオフを見学した時には、今年5月に予定されていた新しいスーパースポーツカーのお披露目には絶対に参加すると約束していたのに。それがコロナの影響で9月に延期され、それでもまだイタリアに行くことができなかったのだ。


でも、そんな我々のためにマセラティはわざわざ、モデナと同じドライブイン・シアター形式でお披露目中継を眺めるという趣向を実現してくれたのだから、むしろ大いに感謝するべきだろう。モデナのほかに、こうやってお披露目イベントを開催したのは、東京とニューヨークのみという。しかもその2カ所には、なんと、まだエンジンなどの中身は入っていないものの、エクステリアとインテリアは完全に出来上がった実車を運んできてくれていたのである。


デザインを担当したのはトリノにあるマセラティ・チェントロ・スティーレ(デザイン・センター)。ブランドのDNAであるエレガンスとレースの息吹を感じさせることに注力したという。

古典的スタイルと先進技術

この後、別の場所に移動して、その実車を目の当たりにして、“ああ、これはひと目見て誰もがカッコいいと思うに違いない、典型的に美しいプロポーションとデザインを持ったスポーツカーだ”と私は確信した。フルカーボンモノコックやグラウンドエフェクトを重視したエアロダイナミクスなど、最新のスポーツカーづくりの技術を存分に投入して仕立てられてはいるが、そのデザインは決して未来指向一辺倒ではない。むしろ、クラシックなスポーツカーのスタイルを基本とし、その上にモダンなディテールを被せたような姿になっているのである。


たとえば、真横から眺めてみると、ドライバーズ・シートが、ミドシップ車にしてはずいぶん後ろに位置しているのがわかる。ルーフからなだらかに下がっていく先の、わずかにウイング状の反り返りを持ったテールも長めで、全体的にまるでFRクーペみたいなシルエットだ。スーパーカーといえばキャビンフォワードなレーシングカーに近いプロポーションを持つミドシップ車が多い中にあって、これはむしろGTカーを志向しているように見える。Aピラーの角度をそのまま前方に延ばしていくと、ピッタリ前輪の中心点に行くようになっているのも、古典的な美しいクルマづくりの文法通りだ。


低い位置に大きく口を開けたグリルに象徴されるフロントのデザインは、明らかにバードケージやMC12からインスピレーションを受けている。新しい時代の幕開けといっても過去を切り捨てていくのではなく、むしろ歴史を踏まえながら、それを未来へとつないでいく〈いま・ここ〉を象徴するスポーツカーをマセラティは作りたいのだという意志が、このMC20のデザインには込められているように思えた。


ちなみにマセラティの解説によれば、このクルマの色が塗られたボディ上部はエレガントなスタイルを優先し、カーボン・パーツがむき出しになっていたり黒く塗られていたりするボディ下部は技術的な要求を重視して仕立てられているという。実はボンネットやリア・サイドフェンダーには空気を取り入れるための大きな穴が空いているのだが、それはサイドからではまったく見えないようになっていて、ボディ上部に関しては、あくまでエレガントなクーペスタイルを崩さないように徹底してデザインされているのである。


すべてが合理的に、ほぼミニマルにデザインされたインテリア。メーターはフルデジタルだ。シートはイタリアのサベルト製。センターコンソールのダイヤルはモード切り換えで、GT、WET、SPORT、CORSA、ETC OFFがある。

カーボンモノコックボディの技術設計を担当したのはパルマにあるレーシングカーづくりのトップ企業、ダラーラ。製造はナポリ近郊にあるTTAアドラーで行われるという。すべてイタリアの会社で、オール・メイド・イン・イタリーを謳うゆえんである。クーペ・ボディのほかに今後カブリオレとフルEVが追加される予定で、モノコック・ボディはモジュール式となっており、それぞれのモデルに合わせてカーボンファイバーの配分を変更することで、必要な剛性や耐久性を確保できるようになっているのだそうだ。


ミドシップに縦置きされる“ネットゥーノ”3L V6ツインターボ・ユニット。
リア・フードにはトライデント(三叉の矛)が透かし彫りされている。

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文=村上 政(ENGINE編集部) 写真=マセラティ・ジャパン

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