2021.07.09

CARS

ドイツ仕様のテスト・カーが緊急上陸! アウディRS eトロンGTにテストコースで試乗!!

アウディがSUVのeトロンに続いて放った電気自動車第2弾が、4ドア・クーペのeトロンGTだ。そのハイパフォーマンス版のRS eトロンGTが緊急上陸。テスト・コースで試乗の機会を得た。

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まるでデザイン画のようなカッコ良さ


試乗の舞台となった茨城県にある日本自動車研究所のテスト・コースで初めてRSeトロンGTの実車を目の当たりにして、これはどこからみてもひと目でアウディとわかる姿をしているけれど、これまでのアウディとはまるで違うプロポーションを持った、飛び抜けてスタイリッシュなニューモデルだと目を瞠らされた。長期テスト車として編集部にあるA7スポーツバックも、低くてワイドな4ドア・クーペ・スタイルを持っているけれど、このeトロンGTは、それをさらにギュッと低くして横に引き延ばしたような印象を受ける。よくカー・デザイナーが披露する極端にスタイリッシュに描かれたデザイン画がそのまま実物になってしまったような、そんなカッコ良さを持っているのである。



ワイド&ローのスタイル

実際のところ、全長×全幅×全高はRSeトロンGTが4990×1965×1395mmで、A7スポーツバックが4975×1910×1405mm。eトロンGTが55mmワイドで、わずか10mm低いことが、こんなにも違う印象をもたらしているのだとしたら驚きである。よく電気自動車になるとタイヤが四隅に寄せられてスタイルが良くなる上に、フットプリントが拡大してハンドリングも走行安定性も向上すると言われるが、この2台の比較では、ホイールベースはeトロンGTが2900mm、A7が2925mmで、全長が15mm短いA7の方が25mm長く、むしろタイヤが前後の端に寄っていることになる。それでは他に何がこんなに違う印象をもたらしているのだろうとまじまじと写真を見比べて気づいたのは、ボンネットの高さがeトロンGTの方が圧倒的に低いことだった。その下にエンジンを積んでいないのだから当り前だが、こういうところの自由度がデザイン画に近いものを現実に生み出す原動力になっているとしたら、今後、ますますスタイリッシュな電気自動車が続々と現れることになるのかも知れない。

フロントに81リッター、リアに405リッターの容量の荷室を持つ。

タイヤは20インチが標準だが、試乗車はオプションの前265/35R21、後305/30R21のグッドイヤー・イーグルF1を履いていた。eトロンGTのブレーキはスチール製ディスクとなるが、RSには磨耗とダストを低減し、錆にも強いタングステンコーティングの鋳鉄ディスクと10ピストンのフロント・キャリパーが奢られる。



それはともかく、RSeトロンGTの駆動システムとシャシーの成り立ちを見ておこう。基本プラットフォームは同じグループのポルシェが開発したタイカンと共通するものだと考えていい。前軸に238ps、後軸に456psのふたつの永久磁石同期モーターを持つ4輪駆動車で、システム全体としては598psの最高出力と830Nmの最大トルクを発生する。トランスミッションは後軸に2段ATを持つが、1速ギアはローンチコントロールなどでブースト機能を使用する時のためのもので、普段は発進から250km/hの最高速まですべて2速を使用する。RSにはアダプティブ・エア・サスペンションのほか、後軸には多板クラッチを使った電子制御式ディファレンシャルロック機構も装備される。さらにオプションで4輪操舵システムを装備することも可能だ。

新時代アウディの乗り味は?


試乗はバンクを含む高速周回路をわずか4周だけという極めて短いものではあったが、それでもこの飛び切りスタイリッシュな新時代アウディがどんな乗り味をもっているのか、その概要をつかむことはできた。

これまでの4ドア・アウディよりもやや低めのポジションのシートに着くと、目の前にはフルデジタルの液晶メーターパネルと、その右側には10.1インチのタッチディスプレイが連なっている。そのディスプレイの高さを上げるためか、エアコンの吹き出し口が下に追いやられているのが新機軸に思えたが、その上下にはこれまでもお馴染みのスイッチ類が並ぶいつものアウディの風景だ。

ドライバーを包み込むモノポスト・デザインを採用したインテリア。

前席はもちろん後席もホールド性にすぐれたスポーツ・シートを装備する。



センターコンソールのスタート・ボタンを押すと、まず電気冷蔵庫のスイッチが入った時のようなヒューンという音がして、メーターパネルが明るくなる。さらにスタート・ボタンの横にあるスライド・レバーを後ろに引いてDレンジに入れると、わずかにブーンと唸るような音が聞こえて発進態勢に入る。走り出しはスムーズそのもので、これ見よがしな演出はまったくないが、音だけは速度ととにも独特のブヒューンという合成サウンドが高まるようになっている。まるで回転数の上昇とともに高まるエンジン・サウンドの電子版といった趣だ。アクセレレーターから足を離した時の回生ブレーキは極めて弱く、パドルを使って回生の度合いを強めることはできるが、せいぜいギアを1速落とした時のエンジン・ブレーキくらいの減速感で、ワンペダルで運転できるようにはなっていない。電気自動車としての新しいドライビング感覚をアピールするよりも、これまでの内燃機関のクルマから乗り換えても違和感がないように仕立てているように思われた。

あっと言う前に160km/hオーバー


乗り心地は素晴らしく良い。テスト・コースの路面があまりに円滑なので本当のところは分からないが、恐らく一般道を走っても変わらないだろう。ペダルやステアリング操作に対する応答性は実にスムーズかつマイルドで、いかにもアウディらしい上質な乗り味が伝わってくる。



とはいえ、高速周回路の直線でアクセレレーターを踏み込んだ時の加速は強烈で、あっという間に160km/hオーバーの世界に入っていた。そこからやや減速してバンクに入っていく時のスムーズさは、ちょっと不思議な感覚だった。明らかに重心が低い乗り物が、路面に吸いつくようにして突き進んでいく。そのオン・ザ・レールの走りの気持ち良さは、これまで体験したことのないものだ。

ポルシェ・タイカンと違うのは、あちらがもっと明確にスポーツカーとしてのメリハリのある走りを強調しているのに対して、こちらはたとえRSであっても、どこまでもスムーズでマイルドな乗り味を貫いていることだろう。しかも、これまでの内燃機関のクルマで築いてきたものを捨てるのではなく、その延長線上にありながら、まったく新しい走りを実現しているところが凄い。たった4周でも素晴らしい体験だった。

■アウディRS eトロンGT
駆動方式 前後2モーター4輪駆動
全長×全幅×全高 4990×1965×1395mm
ホイールベース 2900mm
車両重量(欧州値) 2347kg
最高出力 598ps(ブースト時646ps)
最大トルク 830Nm
バッテリー形式 リチウムイオン
バッテリー容量 93.4kWh
航続距離 472-433km
トランスミッション 後軸上に2段AT
サスペンション(前) ダブルウィッシュボーン/エア・スプリング
サスペンション(後) マルチリンク/エア・スプリング
ブレーキ(前後) タングステンカーバイド・コーティング鋳鉄ディスク
タイヤ (前)245/45R20、(後)285/40R20
車両本体価格(税込み) 1799万円

文=村上 政(ENGINE編集長) 写真=柏田芳敬

(ENGINE2021年7月号)

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