2021.11.29

CARS

これからはSUVも電気の時代か? 今注目のプレミアムな電動SUV3台を乗り比べた!!

メルセデス・ベンツ、レクサス、ジャガーという独日英のプレミアム・ブランドの、それぞれ成り立ちの異なる電気自動車のSUVについて、モータージャーナリストの石井昌道とエンジン編集部のムラカミとウエダが試乗した。

SUVとEVは実は相性がいい

上田 電気自動車のSUV、メルセデス・ベンツEQAとレクサスUX 300e、そしてジャガーIペイスで都心から千葉方面まで半日試乗してみました。

日本仕様は今のところ前輪駆動のEQA250のみだが、欧州では2モーターのEQA300 4マチックとEQA350 4マチックが追加されている。

村上 SUVにはクロスカントリー的な匂いがあるけど、EVはどちらかといえばクールでインテリジェントなイメージ。だからなんとなく合わない気がするんだけど、実は相性がいい。EVのいちばんの問題は重たい電池をどこに置くかなんだけど、SUVの場合は車高が高い分、床下のスペースを使える。

石井 EVは床下にバッテリーを置くのが基本で、必然的にヒップポイントが高くなっちゃうんですが、SUVだとちょうどいい感じになる。

村上 でも、従来の内燃エンジン車用のプラットフォームだと床下に積むのはなかなか難しい。

石井 スペース確保が難しいです。

村上 結局、既存の内燃エンジン車のものを無理矢理に使うか、内燃エンジン車とEVで共用できるものを造るか、まったく新しいEV専用のプラットフォームを造ることになる。

上田 レクサスUXのEV仕様、300eは既存のものを使った、コンバートEV的なタイプですね。

面積が拡大したフロア・アンダーカバーのほか、ステアリング・ギア・ブレースの追加や、18インチ・ホイール装着車はショックアブソーバーも300e専用になるなど、各部に手が加えられている。

石井 いちばんとってつけた感じがするね。

上田 バッテリーが床下から飛び出しています。上げ底ならぬ下げ底。

村上 メルセデス・ベンツEQAが内燃エンジンとの共用型で、ジャガーIペイスがEV専用型だから、まさに三者三様だね

上田 動力システムはUXとEQAはフロントの内燃エンジンが収まっていたところにモーターを配置して前輪を駆動。Iペイスは前後輪にそれぞれモーターを配置して4輪を駆動するなど、違いがあります。

石井 メルセデスは2023年までに全セグメントにEVを、2025年に全モデルにEVを、2030年に100%EVを目指すと言ってる。

上田 すでにSUVのEQCとEQAが上陸済みで、セダンのEQSとEQEを欧州で発表。GクラスのEVコンセプトまで先日のミュンヘン・ショウで登場しました。トヨタはハイブリッドもディーゼルも水素もやりつつEVもやる。UXは第一弾ですが、本格的にはスバルとの協業のbZ4Xからです。

石井 そして、ジャガーは一番早くて2025年に全モデルを電動化すると言っている。

EQAやUX300eとは異なり4駆で高い悪路走破能力を備え、エアサス装着車は最大で230mmまで地上高を引き上げられる。最大渡河水深は500mm。

上田 各ブランドの電動化に対する思いが、プラットフォームや動力システムの違いに現れていますね。

村上 で、一番最初に言っておきたいのは、この3台、どのクルマも本当にすごく良くできている、っていうこと。

石井 加えて、EVにするとエンジンと違って個性を出しにくいってよく言われますが、この3ブランドとも一生懸命に独自性を出そう、っていう強い意志が感じられますね。

EQAはまるでSクラス!

上田 それが特ににじみ出ている感じがするのがEQAでした。



石井 普通に誰でも運転できて、快適に遠くまで疲れずに行けそう、っていう感じがありますよね。

村上 もう紛れもないメルセデスネスがあった。今回一番最初に乗ったのがこのEQAだったんだけど、もうビックリ。これ、滅茶苦茶いいクルマじゃん! って驚いた。

上田 僕も前にEQCに乗った時より驚きが大きかった。内燃エンジン車のCクラスとAクラスって、明確な差があるじゃないですか。その差を感じないというか、むしろEQCより小さいEQAの方がいいくらいに思った。

EQAはステアリング・パドルを標準装備。手動で4段階の回生レベルを選択できるほか、前走車との車間距離や勾配など路面状況に応じて最適な回生を得られるオート・モードも備える。

石井 EQCよりも後から出た分のアドバンテージもあるだろうけど、EQA、いいんだよねぇ。Cクラスとか後輪駆動のガソリン車よりいいかもしれない。

村上 メルセデスは電動化がちょっと遅れていた。それを一気に取り戻そうとしているような勢いがある。

石井 昔からメルセデスが求めるエンジンは、モーターのようにトルクがあって、モーターのように静かで、モーターのようにシームレスっていうものでした。確かに高級車に求められるエンジンって、モーター・ライクなんですよね。特にメルセデスの場合は、雰囲気としては基本、黒子に徹しているんだけど、いざとなると頼もしい、みたいな。つまり一番メルセデスらしいクルマは、実はモーターでこそ造れる。だから、EQAって、まるでSクラスみたいな味わいなんですよ。

試乗車は調整式のスポーツ・サスペンションやボディ下部のスポイラー類を含むAMGラインとAMGレザー・エクスクルーシブ・パッケージ(本革シート)などのオプションを装備。

上田 EQシリーズで一番安価なモデルでこれじゃ、上のクラスのEQEやEQSっていったいどうなるんだろうって思いますよ。

村上 でもね、意外とこれがいちばん良かったりするかも(笑)。日本で乗るなら、このくらいの車体サイズがちょうどいいしね。

上田 確かに価格や使い勝手を考えると、バッテリーの容量もEQAの66・5kWhくらいがベターな感じがしますね。

村上 だってあまりにも車体が大きくてバッテリーも巨大になると、EVでも遠くまで行けるような気になっちゃうけど、まだまだインフラの問題もあってなかなかそうはいかない。

石井 電池を増やしても重くなるから、むしろ電費は悪化します。



村上 EQAは頃合いがちょうどいいよ。SUVとしては劇的に乗り心地もいいし、重心が低く、操る気持ち良さもある。ただ、電気に関する部分はまだ発展途上にあるかな。例えば回生時のブレーキのフィーリングに違和感があったりね。

レクサスはガソリン・スタンドに行きそうになる


上田 そうしたことを含め、何かと抜かりがないのがレクサスUX300eです。バッテリー容量はEQAよりやや少なめの54.4kWhですが、価格はほぼEQAと同じ600万円台の半ばです。



村上 この3台の中で、普通の内燃エンジン車に乗っていた人が、まったく違和感なく乗り換えられるのはUXだと思う。

石井 バッテリーを床下に配置した結果、重心位置がドライバーのヒップポイントと近くなって、クルマの動きとすごく一体感が出ている。ステアリングまわりも剛性を上げたり、細かく手が入っている。

村上 すごくそういう感じがある。どんなところを走っていても、無条件の気持ち良さがあるというか。

上田 EVってパワーデリバリーがダイレクトになった自在感も気持ちいいけれど、それだけじゃない。

UX300eもステアリング・パドルを標準装備し、4段階の回生レベルの選択が可能。バッテリー搭載に伴うシャシーの大幅な改良に加え、速度や加速感を音で補うアクティブ・サウンド・コントロールも装備する。積極的に走るほど、サウンドのピッチと音圧が上昇し、直感的にクルマの挙動を把握できる。

石井 EVにするとシャシー性能がみんな良くなっちゃうんですよ。重心が下がるし車体の前後両端が軽くなるし、重量配分も最適化できる。マツダのMX-30でEVとマイルド・ハイブリッド車の両方を乗り比べる機会があったんですが、シャシー性能にすごく差があった。EV版はエンジン・マウントがいらないですよね。内燃エンジン車は大きく重いものをマウントで吊っているからどうしても回転が上がれば動いてしまうんですが、その影響が大きい。911の歴史なんて、エンジン・マウントの歴史だって言われてますよね、編集長?

村上 そうですよ。もう大変ですよ。それを潰すためにポルシェが長年どれだけ苦労したことか。

石井 ポルシェをもってしても997型や991型でようやく完成を見たくらいかな。だから、今後いいクルマを造ろうとしたら、必然的にEVになっちゃうのかもしれない。



上田 シャシー・エンジニアとしては電気モーターは理想的なパワーユニットなわけですね。

村上 EQAでは違和感のあった回生ブレーキも、UXはまったく気にならなかった。完璧。さすがは初代プリウスから延々やって来ただけのことはある。

上田 EQAもそうだけど、オーナーの奥さんがたまに乗ったりすると、間違えてガソリン・スタンドに行っちゃいそう。

内外装のデザインは基本UXシリーズと共通だが、空気抵抗の低減を狙ったホイールや、液晶メーターの表記は300e専用となる。

石井 レクサスらしい、すっきりと奥深い感じは、やっぱりモーターと相性がいいですよね。

村上 低い床下だけこすらないように気をつけましょう。それ以外、本当にソツのない1台です。

メルセデスやレクサスとは別格のジャガー

上田 3台目のIペイスはバッテリー容量は90kWhと圧倒的に大きく、価格も1000万円強からと、ちょっとクラスが違います。



村上 でもそれ以前に、Iペイスはさすが専用のプラットフォームを造っただけのことはある、という感じがするよね。

石井 ブレーキもけっこう上手いですよ。1発目とは思えない。

上田 明らかにほかの2台に対してスポーティで自在感が強い。

Iペイスはステアリング・パドルを装備せず、回生レベルは液晶画面のスイッチ操作による2段階の切り替えのみ。UXやEQAのようにシフト・ノブやレバーは存在せず、中央コンソールのボタンで操作する。アクティブ・サウンド・デザインと呼ばれる疑似エンジン音を室内に響かせることも可能。

石井 ジャガーは根本に美しく、速くなくてはならない、っていう哲学がある。それを実現するためにはこの新しいプラットフォームを造らないと駄目だったのかもしれない。

村上 偉いよね。投資として考えたら、専用プラットフォームをいきなり自社だけで造るっていうのは考えにくい。でも、石井さんがいうように、ジャガーがジャガーであるためにはそれしかなかったのかな。独自の美しさがあるよね。

石井 昔のジャガーは高性能エンジンがフロントにあって、メカニズムがロング・ノーズというスタイリングに表れていた。Iペイスは逆にショート・ノーズだけど、ちゃんとカッコイイ。横から見ると昔のグループCカーみたいな感じもする。

上田 サイドシルの塗り分けとドア下のプレスラインで、背の高さを感じさせない。上手ですよね。

村上 一番普通のUXと比べると、Iペイスの乗り味にはビックリするよね。スポーツカー的で、GTカー的で、ジャガー以外の何物でもない。もう1台のEQAはその中間をいっている感じ。



石井 内燃エンジンのジャガーをデータ化して採用しているんじゃないかと思うくらい加速感がモーターらしからぬところがあります。モーターは基本、低回転域からトルクがあってドン! と来るけど上が伸びない感じが相対的にする。だから最初は抑えて、ぐーっと後から伸びる感じにした方がV12みたいになる。

2021年モデルの受注を開始しており、バッテリー・マネジメントが改良され、インフォテイメント・システムは最新のPivi Proへ切り替わる。

村上 加速感もそうだけど、足の感じもそうだよね。

石井 ヒタヒタしている。

上田 口伝とかで長年受け継いできた伝統的なレシピを、あらためて再構築したみたいですよね。

いまは一番楽しい時代かもしれない

村上 こうしてEVのSUV3台に乗ると、ひと味違うものに乗りたいと思ったときに、EVという選択肢は相当アリだなって感じがするね。

上田 航続距離や充電施設の問題もありますが、長期リポート車のIペイスで雪道を走った時は、すごく楽しかったですよ。だからインフラが整えば今後はいろんなライフスタイルに適合していくと思います。

石井 効率を考えればリア・モーターが基本で、用途に応じて前にもモーターという考え方のEVが増えてくるはずですが、ちゃんとした2モーターなら内燃エンジン車の4WDより雪道はイイですからね。

村上 最後に、どれが皆さんお薦めですか?



石井 憧れを含めて、この中で欲しいのはIペイスかなぁ。

村上 前後重量配分が良くなった分フロントの軽いEQAは濡れた道とかだと、ちょっとホイールスピン気味になったりしたから、僕は2モーター仕様のEQAが欲しい。

上田 欧州ではすでに発表済みだから、そのうち上陸するでしょう。僕はUXの何かと手厚いところも捨てがたいけど、驚きの度合いでEQAかなぁ。FFベースのベンツのSUVにこんな思いを抱くなんて、自分でもちょっとショッキングでした。

EV一本槍でなく、あくまで適材適所

村上 現時点では基本はシティ・コミューター的な使い方をして、週末とかにちょっと郊外に出かける。そんなライフスタイルならこの3台は最適な答えだな、って思う。

石井 要は適材適所ですよね。Iペイスは小型の内燃エンジン車と組み合わせたらいいし、EQAやUXは逆にグランドツアラーと2台持ちとかが良さそう。これだけ多様化の時代と言われているのに、クルマのパワートレインだけがEV一本槍の風潮はちょっとおかしいですよ。

村上 まぁでも、今は過渡期でいろんな選択肢のある一番楽しい時代ともいえるよね。

上田 過渡期のものって、造り手がいろいろと挑戦しますよね。時に試行錯誤したり、お金を思い切ってかけたりするから、けっこう個性的なものが生まれる。でも、そこから代を重ねると、手慣れてきてコストを考えたりもする。だからプレミアムEVの最初の世代のIペイスやEQAやUXをいま味わうのは、すごくオモシロイかもしれないですよ。

話す人=石井昌道+村上 政(ENGINE編集長)+上田純一郎(ENGINE編集部、まとめも) 写真=郡 大二郎

■ジャガーIペイスHSE
駆動方式 前後横置き2モーター4輪駆動
全長×全幅×全高 4695×1895×1565mm
ホイールベース 2990mm
車両重量 2250kg
充電装置:電流タイプ(充電ポート仕様) 普通充電:AC200V/急速充電:DC(CHAdeMO)
最高出力 400ps/4250-5000rpm
最大トルク 71kgm/1000-4000rpm
変速機 1段固定
電池形式(容量) リチウムイオン式(90kWh)
一充電走行可能距離 438km(WLTC)
サスペンション形式 (前)ダブルウィッシュボーン+エア(後)マルチリンク+エア
ブレーキ(前後) ベンチレーテッド・ディスク
タイヤサイズ(前後) 245/50R20
車両本体価格 1183万円

■メルセデス・ベンツEQA250
駆動方式 フロント横置き1モーター前輪駆動
全長×全幅×全高 4463×1834×1624mm
ホイールベース 2729mm
車両重量 2030kg
充電装置:電流タイプ(充電ポート仕様) 普通充電:AC200V/急速充電:DC(CHAdeMO)
最高出力 190ps/3600-10300rpm
最大トルク 38.2kgm/1020rpm
変速機 1段固定
電池形式(容量) リチウムイオン式(66.5kWh)
一充電走行可能距離 422km(WLTC)
サスペンション形式 (前)マクファーソン・ストラット+コイル(後)マルチリンク+コイル
ブレーキ(前後) ベンチレーテッド・ディスク
タイヤサイズ(前後) 235/45R20
車両本体価格 640万円

■レクサスUX300eバージョンL
駆動方式 フロント横置き1モーター前輪駆動
全長×全幅×全高 4495×1840×1540mm
ホイールベース 2640mm
車両重量 1800kg
充電装置:電流タイプ(充電ポート仕様) 普通充電:AC200V/急速充電:DC(CHAdeMO)
最高出力 203ps
最大トルク 30.5kgm
変速機 1段固定
電池形式(容量) リチウムイオン式(54.4kWh)
一充電走行可能距離 367km(WLTC)
サスペンション形式 (前)ダブルウィッシュボーン+コイル(後)ダブルウィッシュボーン+コイル
ブレーキ(前後) ベンチレーテッド・ディスク
タイヤサイズ(前後) 215/60R17
車両本体価格 635万円

(ENGINE2021年12月号)

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