続いて、藤野太一、小沢コージ、渡辺敏史の3人のインプレッション。わずかな試乗時間でも堪能できるほど独自の楽しさを持つウラカンSTOの魅力は、3人ともに強烈に感じながらもその視点はそれぞれ違っていたようだ。
たとえ飛ばさなくてもランボルギーニ・ワールド/藤野太一只のウラカンでないことは一目瞭然だ。聞けばボディの75%をカーボンでつくりなおしているという。シートに乗り込むと股のあいだに配置された大きなシルバーのレバーに「SGANCIO」の文字が。おそるおそる押し引きしてみるとシートの前後スライドレバーだった。どうやら“リリース”という意味らしい。ボタンやスイッチなどあらゆるものが造作に凝っている。バックミラーに目をやると後方視界がまったくない。エンジン・ルームはまるでゴジラの背中のようなフィンを備えたカーボン製のカバーで覆われており、そのスリットからわずかな木漏れ日が車内に注ぎ込んでいる。観念してV10エンジンに火を入れるとNAらしい乾いたいい音がする。ペルフォルマンテで味わった以上の猛烈なエアロダイナミクス性能を想像しながら、西湘バイパスへ向かうと前方視界の片隅に隠れた白バイが飛び込んできた。アクセルを踏む勇気はなくなり、法定速度内で試乗を終えた。ひとつだけ言えるとしたら、たとえ飛ばさなくてもランボルギーニ・ワールドへの没入感は半端ない、ということだ。
いくら高い技術力があっても、日本では絶対作れない/小沢コージこの手に乗る度に、ああ、日本にいくら高いパワートレイン技術があっても、軽量カーボン技術があっても、この味、ムード、ジャンルは作れないなぁと感じる。STOとはスーパー・トロフェオ・オモロガータの略で、要するにワンメイク・レース車両=スーパー・トロフェオの公道仕様。ウラカン・ベースの一般道を走れる本格レーシングカーだ。骨格は従来通りだが、外板は75%以上が軽量高剛性のカーボン素材。加えて軽量フロント・ウインドウなどにより、従来型より43kg軽くなって車重1.33トン台。乗ると、速くてウルサくて硬くて、でも唯一楽しい! ぶっちゃけ日本車でいうならホンダNSXをこう発展させる可能性はあったと思うが、技術があってもこの割り切りやお値段設定は無理。そもそもNSXが売れてないんだからワンメイク・レース仕様も作れない。スーパーカー文化がイタリアと違う。4000万円級のクルマで心底ぶっ壊れるレベルまで楽しむ人が少ないのだ。技術じゃなく文化的センスがコイツを生み出したのだといつも思う。
空力デバイスの見事さと離れがたいV10/渡辺敏史パワートレイン電動化の波がスーパーカー・カテゴリーにも及ぶ中、2025年までには全モデルのハイブリッド化を完了するというランボルギーニ。すなわち、最強のウラカンを標榜するSTOは、純然たる内燃機を動力源とするウラカンとしては最後に近いグレードということにもなる。ワンメイク・レース車両やFIA-GT3車両の開発で培った知見を投入したロードゴーイング・レーサー、そんな物騒なコンセプトの割には平時の乗り心地は望外に洗練されている。これは微小入力域からのダンパーの動き、ストリート・ユースも意識したタイヤの柔軟性によるところが大きいだろう。踏めばともあれ驚かされるのが、640psのMR(ミドシップ)をしっかり安定して走らせる空力デバイスたちの見事な仕事っぷりだ。300km/hに迫るサーキット・スピードでの超絶な安定感はもとより、その効能は50~60km/hの常識的なコーナリングでさえ体感できる。そして何より、自然吸気V10の加速やサウンドの艶っぽさは他に代えがたく、離れがたい美点として特筆しておきたい。
▶「ランボルギーニのおすすめ記事」をもっと見る写真=茂呂幸正(メイン・サブともに)
(ENGINE2022年4月号)
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