2022.05.21

CARS

天然獣肉のフルコースにびっくり! モーガンで行く遠州の伝統文化に触れる旅【後篇】

モーガン・プラス・フォーでグランドツーリング

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緊張感に包まれること30分。迷ったか、と思ったちょうどその時、灯りが見えた。秋葉山参道入口、という看板にそって行くと、赤い橋と、見事な日本家屋があった。ここが目的地であり今日の宿の、まろやだ。

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モーガンと僕を出迎えてくれたのは、白い猫だった。身体をすり寄せ、こっちだよ、とばかりに玄関から薪がくべられた達磨ストーブのある土間へ誘われた。続く日本間にはカチカチと時を刻む古時計や、木の長火鉢がある。そのいっぽうで、モダンなソファが置かれ、洒落たランプがつり下がっている。懐かしさと新しさの同居する、センスの良い不思議な空間だ。庭先や建物内にも、猫が何匹か気ままに歩いている。



まろやはもともと林業家の自邸として97年前に建てられたが、長らく空き家だった。しかし現在の主である三須克文さんとふみさんがひと目で気に入り、4年前に譲り受ける。克文さんは新建材を使ったスクラップ&ビルドの建物の世界に長くいたのだが、その反動か、いつしか仲間と共に古民家再生に関わり、ものを大切に使う、プリミティブな生活をしたいと模索していた。当初は関東と二拠点生活をして修復にあたっていたが、猫とともに移住。今では前職のノウハウを活かし、日本家屋の再生・活用を行うふもとの工務社を立ち上げ、少しでも多くの建物を残すべく活動中だ。そして時間があれば、ふみさんと二人三脚で家屋と庭に手を入れる。ただしすべて完璧にせず、次世代のことを考え、あえてやりしろを残しているのだという。



まろやは民泊施設とカフェと撮影スペースを備えるが、旧き良き部分は活かし、必要な部分だけ手を入れている。そうやって次世代へバトンを継いでいく思想は、走りの味や車体の木造部分は昔のまま、いまのBMWのパワートレインを用いる現代のモーガンと、重なる部分が多い。

それにしても、まろやの杉材のあしらい方は見事だった。そこかしこから、木を知り尽くした職人が知恵と工夫を凝らしたものだということが伝わってくる。杉というと花粉しか頭になかったが、長い歳月を要する植林のことや、木が材になることで生きているときよりもさらに長く使い続けられることを目の当たりにすると、認識を改めざるをえない。

まろやの夜。建物に使われている杉材の中でも特徴的なのは天井で、格式の高い奥の間はセオリー通り杢目がまっすぐの柾目だが、部屋と部屋を繋ぐ次の間は光を当てるとさざ波のような杢目が浮かび上がる。これは根の方に現れることの多いもので、とても鮮やかだが当時は不人気だった材だ。いっぽう土間の横の前室は根に近い台形の材を無駄なく互い違いに貼っていた。


きっとモーガンを手がけた職人たちも、材も技も違うとはいえ、ここを見たら思うところがあるはずだ。そんな空想をしていると、克文さんとふみさんが酒瓶を持って現れた。まろやは時々カフェにもなるが、宿泊時は竈つきの台所を使う自炊が前提なので、基本的に飲食の提供はない。でもこの晩は特別に、その名も“美林”というとても口当たりのいい日本酒を少しだけ2人から頂いた。布団に入ると、薪がぱちぱちとはぜる音が子守歌代わりになって、あっという間に意識が薄れていく。時には猫が一緒に寝床に入ってくれるそうだが、残念なことにこの晩はふられてしまったようだ。

翌朝は裏の竹林を眺めながら風呂を浴び、薪で沸かしたお湯で珈琲を入れ、床の間から庭園を楽しんだ。

日本の自然のもたらす恵みにすっかり癒やされた僕は、縁側に差し込む朝日を浴びながら珈琲をゆっくり味わってしっかり目を覚ました。そして、再びモーガンの幌を開け、もちろん窓も外し、最後にS+のスイッチも忘れずにちゃんと押して、また全身で春の空気を味わいながら、東京を目指したのだった。

■モーガン・プラス・フォー
駆動方式 フロント縦置きエンジン後輪駆動
全長×全幅×全高 3830×1650×1250mm
ホイールベース 2520mm
トレッド(前/後) 1492/1492mm
車両重量(前後重量配分) 1070kg(前軸530kg:後軸540kg)
エンジン形式 水冷直列4気筒DOHCターボ
総排気量 1998cc
最高出力 258ps/4400rpm
最大トルク 40.8kgm/1000-4300rpm
トランスミッション 6段MT
サスペンション(前) ダブルウィッシュボーン/コイル
サスペンション(後) ダブルウィッシュボーン/コイル
ブレーキ(前後) ベンチレーテッド・ディスク
タイヤ(前後) 205/60R15
車両本体価格 1221万円


文=上田純一郎(ENGINE編集部) 写真=山田真人/ふもとの工務社 取材協力=まろや/ふもとの工務社

(ENGINE2022年5月号)

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