2023.03.04

LIFESTYLE

父・東孝光が青山に建てた築50年の6坪狭小住宅『塔の家』! 「星のや」の仕事には、昭和の名建築に住んだ経験が生きている!

おしゃれな青山のキラー通り沿いに建つコンクリート打ちっぱなしの小さなビルが「塔の家」だ。

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普通はつまらない

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塔の家は、建築面積が12平米しかないので、居住部分もコンパクトだ。ひとつの階がひとつの部屋で、それをむき出しの階段がつないだ構造である。玄関を除くとドアは存在せず(トイレにも!)、階段の踊り場部分も部屋の一部として使えるよう、徹底したスペースの有効利用が行われている。もっとも「親子3人であれば程よいサイズ」と利恵さんが話す通り、リビングダイニングで話を伺っていても狭さを感じなかった。それどころか、小さい家のようでいて、玄関からは5階の気配すら分からないのである。面積では測れない広さを感じたものだ。築50年の家だが、随所に住みやすいような工夫がされており、「これで十分、住んでみたい」と思ったものである。

食卓は存在せず、大理石のキッチンカウン ターの周りに椅子を並べて食事をするスタイルだった。 コンクリート打ち放しの階段の上面は、化粧が施されて いないので凸凹のまま。お母様自作のマットが敷かれて いる。写真: 村井修(C)

Photo:(C)Osamu Murai
こうした斬新な家で育った利恵さんは回想する。

「中学生までは、変わった家に住んでいるという認識はありませんでした。高校生になって、いわゆる建売りの住宅に行って思ったのは、『普通の家ってつまらない』ということでした」

ここから学んだことは、「広くすべての人ではなくても、確固とした個性に共感してもらえる人達がいればよい、ということ。今の星のやでの仕事にも生きている」とも。

家以外は大きくなった

お父様の孝光さんはこの家を直しながら住んでいた。床は張り替え床暖房を入れた。スチールに錆止めを塗っただけの窓枠も、気密性の高いペアガラスが入った木製サッシに交換している。キッチン脇の棚は、当時の形をベースに作り直した。冷蔵庫やテレビが大型化し、竣工当時のようにはいかなくなったのだ。この50年、サイズが変わらなかったのは家だけである。

塔の家にあって、クルマの大型化は特に大きな問題だ。2000年過ぎにサーブ9-3がやってきた時のエピソードが興味深い。

「サーブにしたのは、アメリカ留学時代のイメージがよかったからです。なにより設計に思想がありました。例えば事故で車体が押しつぶされた際、キーの差し込み口が当たって膝を骨折する人が多いので、センターコンソールに差し込み口を設けたとか。形も好きでした」

そんなサーブだが、「車幅が172cmもあるので心配でしたが、セールスマンがうちの車庫にも入ると頑張るのでトライしてもらいました。ミラーは折ってしまいましたが、無事に入ったので試乗もしないで買ったものです」

車幅168.5cmの2代目ミニでも、駐車スペースはこれしか余裕がない。コンクリート打ち放しの家に映えるよう、赤いボディカラーを選んだ。

こうして足となったサーブも、車庫入れが大変だったので次第に乗らなくなってしまったという。とはいえ、プレゼン用の模型を運ぶなど、クルマは建築事務所に不可欠である。そこで選んだのが、現在のミニ・クーパー・クラブマン(2013年型)だ。ウイットがあり、円のモチーフが連なるインパネなど、よく考えられたデザインが気に入ったという。ローバー・ミニに比べ「随分大きくなってしまった印象もある」が、幅は168.5cm。「駐車は楽勝」と言う。もちろん誰かに誘導されての話だが。それでもミニに替わり、サーブの頃より事務所員は頻繁に使用するようになったというのだから、3.5cmとはいえその差は大きい。

クルマがあって完成する形

塔の家は50年前の建物であるが、青山にあっても後から建った周囲の建物よりも斬新に見えるものだ。よく練られた、消費されないデザインであることが分かる。お父様の孝光さんは、狭い土地でもクルマのある生活ができるよう、相当なエネルギーを注ぎ込んで設計したに違いない。ここで暮らす利恵さんは、今は助手席専門である。それでも塔の家にクルマは欠かせないと言う。

「この建物にクルマが停まっていないで、車庫がぽっかり空いている姿はどこか虚しいものです。この家の形は、クルマが停まっていて完成するものですから」

文=ジョー スズキ 写真=山下亮一(カラー)/村井修(モノクロ)

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(ENGINE2017年3月号)

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