2023.08.21

LIFESTYLE

国際コンクールで優勝! 次代のクラシック音楽界を担う若手3人のアルバムを聴く

近年の国際コンクール優勝者3人が意欲的なアルバムを制作。その作品に込められた想いとは?

日本人初の1位を獲得した上野通明


最近、日本の若きチェリストが次々に国際コンクールを制覇し、国際舞台へと飛翔している。2021年ジュネーヴ国際音楽コンクールのチェロ部門において、日本人初の第1位を獲得した上野通明もそのひとり。4歳のときにヨーヨー・マの演奏するバッハのビデオを見て憧れ、5歳でチェロを始めた。19歳からドイツで名手ピーター・ウィスペルウェイに学び、現在はベルギーでゲイリー・ホフマンに師事している。上野が語る。

「ワーテルローの森のなかに位置するエリザベート王妃音楽院で学んでいますが、ここは自然が豊かでとても静か、音楽に集中できます」

そして満を持してヨーヨー・マに触発され長年愛奏してきた、チェリストのバイブルとも称されるバッハの《無伴奏チェロ組曲》の全曲録音に踏み切った。

「自分が納得いく演奏ができるようドイツやオランダなどの教会を巡って音響を調べ、録音場所をケルン郊外の村にあるホンラート福音教会に決めました」

こだわりのバッハはテンポがゆったりとし、全編に上野通明のバッハへの愛が凝縮している。

ベートーヴェンでデビューしたドゥエニャス




ヴァイオリンの世界でも輝かしい才能に彩られた逸材が登場した。スペインのグラナダ出身で、ドイツとオーストリアで学び、各地で著名な指揮者の好サポートを受け、実力を伸ばしてきたマリア・ドゥエニャス。数々のコンクールで優勝した彼女のデビュー・アルバムはベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲だが、3楽章すべてに自前のカデンツァ(オーケストラの伴奏を伴わずに自由に即興的な演奏をする部分)を作曲し、マンフレート・ホーネック指揮ウィーン交響楽団と共演してウィーン・ムジークフェラインでライヴ収録している。さらにアルバムにはシュポーア、イザイ、サン=サーンス、ヴィエニャフスキ、クライスラーの第1楽章のためのカデンツァも録音されている。まさにベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲の新たな視点である。

リストをこよなく愛するチャクムル




浜松国際ピアノコンクールの覇者、ジャン・チャクムルはリストをこよなく愛し、留学先もリストの資料や楽譜が数多く保管されているワイマール音大だ。


「モットーは音楽本来の姿を見極めるため楽譜を深く読むこと」

こう語るチャクムルの演奏は、深々とした思考と洞察力に富む。タッチやリズムは自然でかろやかだが、その奥に考え抜かれた表現が潜む。その彼がもうひとりの愛する作曲家、シューベルトの主要作品と彼の音楽に影響を受けた作曲家の作品を並べるシリーズを開始。第1弾はシューベルトのピアノ・ソナタ第4番、第20番にシェーンベルク《3つのピアノ小品》を挟み込む構成。演奏はいずれの作品も生命力と躍動感がみなぎり、豊かな歌が聴こえ、気分爽快になる。

文=伊熊よし子(音楽ジャーナリスト)

(ENGINE2023年8月号)

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