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2023.08.12

LIFESTYLE

キッチンの窓からはスーパームーンが見える！　次に住む人たちが二百年は使ってほしいと考えて建てた宇宙船のような五角形の家

ジョースズキ

彫刻のようにモダンな住宅

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目利きの建築家選び

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そんな二人はマンション住まいだったが、ル・コルビュジエのコンクリート建築が好きで家作りを始めた。目の肥えた二人が選んだ建築家は、藤井兼祐さん。メディア露出が多い訳でも、著名な建築事務所で働いていた経歴がある訳でもない。縁があり、とある住宅の設計を若い頃の藤井さんが手伝っていたことを知っていたのだ。国際的な出版物の表紙になったその住宅を、酒井さんは史上最高の家と考える。そんな藤井さんの才能を見込み、この家を超える名作の設計を依頼したのだ。

敷地は、レトロ喫茶の隣で長く駐車場として使っていた土地。酒井さん夫妻の要求水準は高く、設計には相当な時間を要した。その間も、酒井さんは家のための家具や美術品を、オークションなどでどんどん購入していくのである。そうした逸品が美しく納まるよう、設計を変更したことも少なくない。





完成した酒井邸は、未来からやってきた宇宙船のような五角形の家。間取りは、1階のリビング部分が吹き抜けで、ダイニング・キッチンと寝室、水回りがある。2階は寝室が2つに半屋外のお風呂だ。不規則な位置に設けられた窓からの光が異形の室内のあちらこちらに影を作り、時代を経た美術品や家具の存在と相まって、唯一無二の空間になっている。

最先端の技術で設計

こうした個性的な造形の家の実現に一役買ったのが、藤井さんが設計に使う特別な3Dソフトである。クライアントはVRで空間を体験できるので理解しやすく、模型制作も不要だ。そのうえ季節ごとの太陽の位置もシミュレーションでき、西日の影響を受けない位置に窓を設けることも、必要最小限の庇のサイズを算出することも可能。奥様の要望でスーパームーンが拝める位置にキッチンの窓が設けられたのも、このソフトのお陰である。



もっともこの造形の家だ。施工に求められるレベルは相当に高い。東京の腕の良い工務店の担当者が、一年間、足利に住み込んで対応を行った。とはいえ潤沢な予算がある訳ではない。それでも工事が上手くいったのは、フレンドリーな酒井さんの人柄のお陰だろう。アート・ディーラーの粋人と聞くとそれだけで遠い存在のようだが、毎日のように現場で職人にお茶を出し、お喋りをした酒井さん。次第に職人たちは労を厭わなくなったという。

ちなみに取材は5月の夏日であったが、建築家の藤井さんが強く薦めた断熱処理のお陰で、空調がなくとも室内はひんやりと涼しく抜群に快適だった。藤井さんは、東日本大震災を経験し、建築に対する考えが変化した。住まいは創造的な造形であるだけでなく、日々の幸せを感じられる要素が重要だと。彼が設計したいのは、風が流れるような家。それには断熱と効率的な空調が欠かせないと力説する。



この家で過ごす時間が、本当に愛おしいと語る酒井さん夫妻。住宅の寿命が20年と言われる時代にあって、次に住む人たちが二百年は使ってほしいと考えている。歴史のある町で生まれ育ち、普段から長い歳月をかけて人から人へと渡っていく品々を扱う建て主。名建築を建てるだけでなく、後の時代の人たちに引き継ぎ、大切に使ってもらうという発想に学ぶべきことは多い。

文＝ジョー スズキ（デザイン・プロデューサー）　写真＝田村浩章



■建築家：藤井兼祐 1966年東京生まれ。高校を卒業後、働きながら世界各地の旅に出て知見を深めつつ建築を学ぶように。建築家としてのキャリアは30年になる。3Dソフト（BI M）を用いた先進的な設計手法を用いる一方、室内温度の差によるヒートショックが健康に与える悪影響を排除したエコな家作りを推進。造園家の奥様が主宰するランドスケープユニットが、今回紹介した酒井邸も含め、藤井建築の植栽を担当。

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（ENGINE2023年8月号）

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