2023.12.17

CARS

「世界中を探しても、こんな幸せなZ1は、そうはない」 恩人から託されたBMW Z1にずっと乗り続けているオーナーの密かな誓いとは

BMW Z1とオーナーの神津さん。

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恩人のおかげで4台持ちに

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BMWと神津さんの縁は、2人の恩人によってもたらされたのだそうだ。ときはモータリゼーション花盛りの頃。寝ずに働き18歳で免許を取ると同時に手に入れた4ドアの箱スカで、神津さんのカー・ライフがはじまった。続いて2ドアの箱スカ、ケンメリと日産車3台を乗り継ぎ、いすゞ117クーペに乗り換える。

社会人になり、なにかと神津さんを可愛がってくれたひとが、たまたまBMW750iLに乗っていた。5リッターV12を載せる2代目のE32型の最上位モデルだ。このオーナーの運転手代わりをしているうちに、彼が懇意にしていたオートババリアンというディーラーの代表とも出会う。この2人との出会いが神津さんを奮起させた。いつか成功してBMWに自分も乗りたい!
BMWを手に入れるならば、なんとしてでもこのお店の、この人から買いたい!

2人は国産車しか知らない若者にBMWの世界を教え、さらに人生の道筋も示したのかもしれない。神津さんは一念発起し起業。見事に成功し、3代目、E34型の535iを新車で手に入れた。だが「オマエにそれ、やるわ」という一言で、自らを開眼させてくれた750iLを譲られ、乗り換えることに。

浅間山の麓にある神津邸。建物の構成や庭の造成も神津さん自身が考えたという。Z1が置かれているのは庭にあるゴルフ用グリーンの上!「ドアの上げ下げは喜ばれますよ。知り合いの子供から乗せて、とせがまれたり。でも小さい孫を乗せるときは危ないから上げています(笑)」


さらに奥様用にわざわざ輸入したE30型の325iXや、E34型5シリーズ・ベースの希少なアルピナB10アラード4WDも購入し、あっという間にBMW&アルピナ3台持ちへ。それでも情熱は収まらない。オートババリアンのショールームで真っ赤なZ1を見てしまったのだ!

「最初は売ってもらえなかったんですよ。でも懇願してね。最後の最後に“大事にしてくれよ”って持ってきてくれて、託されまして。だから今も大事にしているだけですよ」

展示用のほぼ新車だったZ1を手に入れてから早幾年。以来1カ月に1度くらい走らせ、ときどきは自宅から近隣の温泉まで2時間ほど峠道も飛ばす。隣に座ってくれるのは息子から孫娘へと変わったが、走るのは晴れの日だけなのは変わらない。そして戻るたびにガレージに納め、埃を払い、白いシーツと、静電気の起きにくいビニールでていねいに車体を覆い、次の逢瀬がいつになるか、楽しみに考えるのだという。

Z1の走行距離はまだ1万km以下!「車体が軽く出足がいい。あとね、僕はMTがいいんだよ、やっぱり。直6エンジンのサウンドもいいし……」。ちなみに今欲しいのはZ8だそうだが、最初の535iを買う時は後押ししてくれた奥様に「Z1を手放すなら」と言われ断念したとか。

「たまたまZ1で孫とアイスを買いに行ったら声を掛けられてね、それがきっかけで近所の同世代の整備士さんと意気投合したんですよ。もう今は全部そこにお任せしています」

神津さんの芝への思いと、新車の時よりもさらにいい状態にまで機関も外装も仕上げようというその整備士の思いは、相通ずるものがあったのだそうだ。クラックの入っていたフェンダーは新品に交換され、エンジン内部にも手が加えられた。取材はこの一連の作業の少し後のことだったが、長年Z1と過ごしてきた神津さんの「まさに今が最高に具合がいい」という言葉と笑顔が成果を物語っていた。いやはやたぶん世界中を探しても、こんな幸せなZ1は、そうそういないに違いない。

文=上田純一郎(ENGINE編集部) 写真=岡村智明




(ENGINE2024年1月号)

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