2024.01.28

LIFESTYLE

この家の外壁はいったいどうなっているのか? 柔らかな光と風が気持ちいい 巨大な鎧戸が日差しと視線を遮る、建築家の息子が両親のために設計した超個性的な家

木製の鎧戸には、軽さと強度を考慮し屋久島地杉が使われている。

全ての画像を見る
独立後、最初の住宅

advertisement


そんなエンジニアの父親とアーティストの母親のもとで育ったので、「その両方の要素を合わせ持つ建築家を職業として選んだ」と、麻殖生さんは話す。そして3年前、長年勤めたアトリエ系の建築事務所から独立し、自身の事務所をスタートさせる。そのお祝いとして、両親から依頼されたのが実家の建て替えだった。

父親からの要望は、「人目を惹くインパクトのある家を設計して欲しい。ただし予算は守ること」。一般に建築家は独立後、最初に家族や親族の家を手掛け、その存在を広く世に知られるケースが少なくない。応援してくれる人たちの家作りは、目指すスタイルを実現させやすいのだ。70代の両親は、「私たちは、いつの日か施設に入ることになるかもしれません。その時は、子供たちが住めばいいのですから」と、口にする。息子である麻殖生さんへの深い愛情と期待を感じた。

南側の全面が窓となった2階の居室。大きな部屋で、造作家具が奥の書斎、手前のダイニングを仕切る。

そうして完成したのは、東南の角にある敷地を利用した、明るく開放的な家。1階の母親のアトリエも、2階のリビング・ダイニングも、南側が全面窓で明るい。そして窓を覆う鎧戸が、強い日差しと外部からの視線を遮る仕組みだ。敷地南側の道路は幅4mと狭いが、向こう側に建物が建つ心配がないので、鎧戸の中央部は開けて庇として使っていることが多い。

「最近は全面を窓にした家が増えていますが、父の世代はかつての台風被害の記憶があるので抵抗があるようです」と、麻殖生さん。父親の健二さんは子供の頃、関西に住んでいたが、「ジェーン台風や第二室戸台風を体験し怖かった」そうだ。そのため鎧戸には、いざという時の雨戸の役割も与えられ、細く華奢に見えるが頑丈に作られている。

ダイニング。テーブルは特注品。棚には家族で集めた美術品や民芸品を飾った。

2階居室は、高さ2.85m、幅10mの大きな空間を、特注の造作家具で仕切ったもの。リビングを中心に、東側は父親の書斎、西がダイニングになっている。所々置かれている家具やオブジェは、長年母親のアトリエに仕舞われていたお宝の中から、麻殖生さんが選び出したもの。こうした思い出の品々のお陰もあり、家の空気は和やかだ。梁が見え、ラワン材で仕上げたシンプルなこの部屋を、父親は「山小屋風」と感じるそうだ。たしかに外観と比べてアットホームな雰囲気だが、空調を床下に隠すなど、随所に麻殖生さんの美意識とこだわりが見て取れる。


母親が多くの時間を過ごす1階のアトリエは、光が入るだけでなく、窓から芝生の庭が見えて気持ちがいい。庭のある南側は、建て替え前は、縦列にクルマが2台停められていた場所。今回、この南側のエリアが庭になるよう、建築面積を減らし、敷地の西側に駐車スペースを新たに設けた。これで日当たりと風通しが大幅に向上している。



2台のクルマを必要とする両親のため、車種選定はクルマ好きの麻殖生さんが行った。一台は、母親の作品を運ぶことができる、荷室の大きなスバル・フォレスター(2021年製)。最近は、父親が登山に出掛ける時にも使っている。


家もクルマもオープン

そしてもう一台は、日産マイクラC+C(2007年製)。「人生に一度くらい乗ってみたら」と、定年を迎えた父親に屋根のあくクルマを薦めた。購入当時は、メタルトップの小ぶりなオープンカーが流行った時期。華やかな「ガイシャ」ではなく、日産車だがイギリスで生産され、1500台だけ限定で逆輸入されたモデルを選んだ。新車で手に入れ、走行距離は10万キロに近い。きっと色々な思い出があることだろう。健二さんは最近乗る機会が少なくなったと言うが、手放すつもりはなく、将来はもう一人の息子の元に行く予定だという。



この麻殖生さんの両親の家は、専門誌で紹介されるなど、業界での評価も高い。それでも世界的なアーティストである母親は、あえて息子の飛躍を促すため、「もっと攻めてもよかった」と少し厳しい言葉を口にする。この家は、個性と実用性が、絶妙のバランスで成り立っているのが魅力だ。わざわざマイクラC+Cを選ぶ麻殖生さんのセンスに通じる部分が、彼の建築のひとつのスタイルだろう。家族のお互いを思い合う気持ちが詰まった杉並の家。どこかほっこりする時間が流れていた。

文=ジョー スズキ 写真=田村浩章


構造:木造 規模:地上2階  敷地面積:179.51m2 建築面積:74.19m2 延床面積:129.18m2  竣工:2022年 所在地:東京都杉並区  設計:麻殖生龍哉/マイオ建築研究所 構造設計:オーノJAPAN 施工:水雅



構造:木造 規模:地上2階 
敷地面積:179.51m2 建築面積:74.19m2 延床面積:129.18m2 
竣工:2022年 所在地:東京都杉並区 
設計:麻殖生龍哉/マイオ建築研究所 構造設計:オーノJAPAN 施工:水雅

■建築家:麻殖生龍哉 1975年東京生まれ。東京都市大学の大学院で、建築家手塚貴晴氏に師事し、同氏の建築事務所に18年間勤務。幼稚園設計の流れを大きく変えた、「ふじようちえん」を担当する。幼稚園・住宅だけでなく、マンションのリノベーションから、集合住宅・美術館の設計まで、手掛けた建築のジャンルは幅広い。趣味はキャンプ。杉並の両親の家には客間が無いが、息子を連れて庭にテントを張って泊まったり、そこでBBQを楽しんだりと、楽しい暮らしを実践している。


■ジョースズキさんのYouTubeチャンネル、最高にお洒落なルームツアー「東京上手」!
雑誌『エンジン』の大人気企画「マイカー&マイハウス」の取材・コーディネートを担当しているデザイン・プロデューサーのジョースズキさんのYouTubeチャンネル「東京上手」。建築、インテリア、アートをはじめ、地方の工房や名跡、刺激的な新しい施設や展覧会など、ライフスタイルを豊にする新感覚の映像リポート。素敵な音楽と美しい映像で見るちょっとプレミアムなルームツアーは必見の価値あり。ぜひチャンネル登録を!

◆「マイカー&マイハウス クルマと暮らす理想の住まいを求めて」の連載一覧はこちら!

(ENGINE2023年12月号)

無料メールマガジン会員に登録すると、
続きをお読みいただけます。

無料のメールマガジン会員に登録すると、
すべての記事が制限なく閲覧でき、記事の保存機能などがご利用いただけます。

いますぐ登録

advertisement

PICK UP



RELATED

advertisement

advertisement

PICK UP

advertisement