2023.12.28

CARS

シトロエン、すべてのはじまりの地へ ヤフオク7万円のエグザンティア・オーナー、エンジン編集部ウエダが123年前の出来事を探りにポーランドへ!【シトロエン・エグザンティア(1996年型)長期リポート#28(番外篇6)】

DS 7クロスバックの後ろに見える3本のエントツが、この地にあった圧延工場の名残。右奥の湖対岸に見えるのが、123年前にダブル・ヘリカルの歯車を持つ水車があったとされる堰だ。

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すべてのはじまりの地

市庁舎からDS 7で5分ほど走り、目指す湖へ到着。はやる気持ちを抑えながら、まず僕は、DS 7とあたりの風景の撮影をさせてもらった。細かくクルマの移動もお願いし「100枚は撮ったんじゃないか?」と皆にからかわれても、夢中になってシャッター・ボタンを押した。



空は雲に覆われ、どんよりとしている。ときどき通るクルマの音以外、聞こえるのは元気に湖面を動き回っている水鳥の声くらいだ。対岸には、工場の目印の3本のエントツと水門らしきものが見える。湖にはほかに、水の流れ出る堰のようなものはない。きっとあそこだ! ドキドキしながら湖畔道路を回って工場の正門側へ出ると、まさに古い写真そのものの建物が残っていた。




ここは大戦中、軍需工場として稼働していたが、戦火を逃れた後、1990年代にはメルセデス・ベンツのトランスポーター、T1シリーズのアッセンブル・ラインになっていたという。ポーランドではその多くが、救急車になって活躍したそうだ。ヤツェクさんは僕に、専用の装備を架装している当時の写真も見せてくれた。

今は何も造っていないのだろうか。建物内は暗くひっそりとしており、ところどころガラスが割れたりしている。三角屋根の一部を抜いた明かり取りの部分が、まったくの偶然だろうけど、まるでダブル・シェブロンのように見えた。



工場の横を抜け、湖のほとりまでDS 7は入っていく。敷地の端で、道は二股になっている。その右側のクルマが通れないように柵のある青い橋が、対岸から見えたあの水門だった。ごうごうと、落水音だけがあたりに響いている。



ここだ。アンドレ・シトロエンの123年前の出来事を連想させるものは、もはや今は何もない。けれど堰となる水の出口がほかにない以上、場所はここに違いない。さぞ当時は勢いよく水車が回っていただろうと、しばし僕らは123年前のできごとに思いを馳せた。

その名はシトロエン・スクフェル

こうして僕が訪れたことも、少しだけ周囲のひとびとの思いを後押ししたのかもしれない。この1カ月後の2023年4月、ゴウォフノ市はこの堰のすぐ近くの、湖のほとりの大きな木のある土地をシトロエン・スクフェル(CITROEN Skwer)と名付け、記念のプレートを設置したのだ。除幕式が開かれ、ヤツェクさんが挨拶をしたという。



スクフェルはスクエア(Square)を意味するポーランド語だ。つまりこのシトロエンはじまりの地は、公式にシトロエン広場と名付けられたわけである。さらに後日、ポーランドのシトロエン・クラブのイベントも開かれ、クラシック・モデルが集結もしたそうだ。

2024年2月4日には、アンドレ・シトロエンの生誕146年を祝し、孫のアンリ・J・シトロエンがポーランドを訪れるそうだが、驚いたことに、わざわざこのゴウォフノのメモリアルな場所にも彼がやって来るという!

熱意あるシトロエニストたちによって発見された123年前から続くポーランドとシトロエンの繋がりは、こうして今後、さらに広まっていくのだろう。



僕らは水音を耳にしながら「DS 7も良かったけれど、次回こそはシトロエンで来たい」「だったらいっそフランス・パリからこのポーランド・ゴウォフノまで、ずっと自分で運転して、このはじまりの地であるシトロエン・スクフェルまで走ってきたらどうか」「それなら何台も連なって走るような、ツーリング・イベントは実現できないだろうか」。……そんなこんなを寒さを忘れて、長い間語り合ったのだった。

さて、はじまりの地があれば、終わりの地もある。次回の番外篇は、ポーランドからいよいよシトロエンの本拠地、フランスに舞台を移す。ゴウォフノを後にした僕は、この旅に関わってくれたひとびとと別れ、翌日夕方のフライトで、ワルシャワからアンドレ最期の地となるパリへ向かった。

なお時間に少しだけ余裕があったのでワルシャワ市内も練り歩き、旧中央駅プラットフォームを用いた鉄道博物館などにも立ち寄った。こちらの方面に関しては明るくないのだけれど、希少な軍用機関車たちの姿をカメラに収めてきたので、その一部を公開しておこう。




ワルシャワのフレデリック・ショパン空港から、パリのシャルル・ドゴール空港までは約2時間半で到着。そこから予約していた近くの宿まではタクシーで20分ほどだった。日本を離れてからずいぶん経つのにちっとも時差ぼけが治らない僕は、早々に寝込んでしまった。いよいよ明日はアンドレの情熱の成果が集められたシトロエンの博物館、コンセルヴァトワールに向かう。そこではエグザンティアの中でもとびきりマニアックなグレード“アクティバ”の愛好家たちによる、イベントが行われるのである。

■CITROEN XANTIA V-SX シトロエン・エグザンティアV-SX
購入価格 7万円(板金を含む2022年6月時点までの支払い総額は224万4526円)
導入時期 2021年6月
走行距離 16万5134km(購入時15万8970km)
文=上田純一郎(ENGINE編集部) 写真=上田純一郎/Jacek Perzynski/francuskie.pl/Miasto Glowno/GOLDFEDER FAMILY ARCHIVE:BONJANCZYK

(ENGINE WEBオリジナル)

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