2023.12.29

LIFESTYLE

年末年始に聞きたいクラシック! 世界にセンセーションを巻き起こす「ゴルトベルク変奏曲」 絶対注目、天才バッハの音楽に魅せられた3組の実力派アーティストの新譜を聴く!!

ヴィキングル・オラフソンのバッハ「ゴルトベルク変奏曲」は作品に新風を吹き込み、洞察力の深さで勝負する。

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ヨハン・セバスティアン・バッハの音楽はアーティストにとって特別な思い入れがあるもの。それだけにみんなが憧れ、人生を賭けて演奏する。天才の音楽の神髄に迫る3枚の新譜を紹介する。

オラフソンの「ゴルトベルク変奏曲」

アイスランド出身のヴィキングル・オラフソンは幅広いレパートリーを誇るピアニストで、コンテンポラリー音楽の分野でも活動するマルチな音楽家。彼が待望のバッハの「ゴルトベルク変奏曲」を録音した。オラフソンがベルリンで演奏した同曲がドイツ・グラモフォンのディレクターの目に止まり、16年に録音契約が行われたが、その記念の曲がついにリリースされた。

オラフソンの演奏は初めて聴く人に衝撃を与え、新たな発見を促し、音楽を聴く真の歓びを目覚めさせる。「ゴルトベルク変奏曲」も随所に即興的な装飾音が挟み込まれ、躍動感にあふれ、脳が覚醒するような刺激的な演奏。冒頭の静謐なアリアから始まり、30の変奏のあとアリアに戻ったときには、長い旅の終わりを意識させるとともに再び新たな旅へと向かう気持ちにさせる。バッハの最高傑作にまたひとつ記憶に残る名演が登場した。

J.S.バッハ/ゴルトベルク変奏曲/ヴィキングル・オラフソン(ユニバーサル)

トリスターノの「イギリス組曲」

ルクセンブルク出身のフランチェスコ・トリスターノが、20歳のときに録音したバッハ「ゴルトベルク変奏曲」は、世界にセンセーションを巻き起こした。彼はバロックとコンテンポラリーのレパートリーを自在に行き来し、テクノも得意。そんなトリスターノが自身のレーベルを立ち上げ、第1弾のバッハ「イギリス組曲」を完成させた。10月の来日でも全6曲を一夜で演奏、即興的な面も発揮して才能を存分に披露した。録音も枠にはまらない解釈、自由闊達な奏法が聴き手の心をわしづかみ。私は第3番をこよなく愛しているが、トリスターノの演奏は時代を超えて未来へと飛翔し、新たな地平を拓く。第3番は繰り返し聴いても、またすぐに聴きたくなる魔術的な演奏だ。これこそトリスターノの真骨頂。まるで鍵盤と遊んでいるような愉悦の表情が音から垣間見え、聴き手も笑顔になれる。

「バッハの音楽に出合ったとき心が震えた。バッハは日々の糧。毎日バッハを1曲弾いてから練習を始める」と語るフランチェスコ・トリスターノのバッハ「イギリス組曲」は心の深奥に響く。(c)Breno Rotatori

カザルス弦楽四重奏団の「フーガの技法」


結成25周年を迎えたスペインを代表するカザルス弦楽四重奏団が、バッハの未完の大作「フーガの技法」を世に送り出した。この作品は自筆譜に楽器の指示が記されていないため鍵盤楽器で演奏される場合が多いが、カザルス弦楽四重奏団は4本の弦でそれぞれの声部を鋭敏な耳をもって演奏。自身の楽器と他の楽器とのバランスを十分に考慮し、互いに響き合う形でフーガの複雑さと調和を図り、高度な頂を目指している。

カザルス弦楽四重奏団の演奏は冒頭から緊迫感あふれ、身が引き締まる思い。最後に自筆譜にはない「汝の御座の前にわれはいま進み出で」というコラールが奏されているが、これはバッハが死の床で書いたといわれる内省的な曲。カザルス弦楽四重奏団が、「納得のいく終結の方法を見つけた」と語る感動的なフィナーレの在り方。まさに頭を垂れて聴き入ってしまう。

J.S.バッハ:フーガの技法/カザルス弦楽四重奏団(キングインターナショナル)

文=伊熊よし子(音楽ジャーナリスト)

(ENGINE2024年1月号)

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