2024.02.11

CARS

ケイマンSは、どんなポルシェだったのか? 911とは別の本格スポーツカーへの道を歩む!【『エンジン』蔵出しシリーズ/ポルシェ篇】

中古車バイヤーズガイドとしても役立つ雑誌『エンジン』の貴重なアーカイブ記事を厳選してお送りしている「蔵出しシリーズ」。今回は、フラッグシップの911に続き、ミドシップ・スポーツのケイマンにも、直噴フラット6+ダブル・クラッチ式ギアボックス、PDKが搭載された2009年のケイマンSの国際試乗会を取り上げる。

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4機種になった新フラット6

911とボクスターの間隙を埋める新たなミドシップ・スポーツ・クーペとしてデビューして3年、ケイマン・シリーズが第2世代へと生まれ変わった。その最大の変更点は、すでに登場した新型911シリーズ同様、直噴化されたフラット6とダブル・クラッチ・トランスミッション、PDK(ポルシェ・ドッペル・クップルング)の搭載にある。



ただし、ケイマン・シリーズの場合、すべてのエンジンが直噴化されたわけではない。ノーマルのケイマンには、従来の2.7リッターに代わり、排気量を200cc増加させて最高出力を20psアップの265psに高めた2.9リッターフラット6が搭載されたが、これは直噴化されていない。一方、ケイマンSには、排気量こそ旧型と同じ3.4リッターながら、直噴化により最高出力を25psアップの320psに高めたフラット6が搭載された。

2.9リッターがなぜ直噴化されなかったのか。「そうしなくても十分な性能を得ることができたから」というのがポルシェ側の説明だが、当然、コストの問題もあったと想像される。

それはともかく、いずれも新型911とともにデビューした新世代フラット6の系統に連なるもので、新工場のラインでつくられる。徹底的な軽量化と高効率化、そしてフリクションの低減を図った結果、従来型より約6kg軽量化するとともに出力を増大させながら燃費の向上をも実現したというのがポルシェの自慢だ。

オプションのPASMをスポーツにすると、コーナリング時もほとんどロールしない。ダブル・チューブになったヘッド・ライト・ユニットは、カレラGTからの引用。


すでに新型ボクスター・シリーズにも、ケイマン・シリーズと同じエンジンが搭載されることが発表されているので、これで911ターボやGT3など空冷時代から継承した通称GT1ブロックを使う特殊なモデルを除くすべてのポルシェ・フラット6が新世代に移行することになる。

この機会に、4機種の新世代フラット6のスペックを整理しておこう。

排気量の大きな順に、まず、911カレラSの3.8リッターがボア×ストローク=102×77.5の3800ccで、最高出力は385ps。


911カレラの3.6リッターは97×81.5の3613ccで、345ps。

ケイマンSの3.4リッターは97×77.5の3436ccで、320ps。

ケイマンの2.9リッターは89×77.5の2893ccで、265ps。

圧縮比は直噴の3機種が12.5対1、ポート噴射の2.9リッターのみが11.5対1となっている。

この数字を眺めていて気づくのは、カレラSの3.8リッター、ケイマンSの3.4リッター、ケイマンの2.9リッターのストロークがいずれも77.5であることだ。すなわち、この3機種は共通ストロークのボア違い。カレラの3.6リッターのみが81.5のやや長いストロークを持っている。

一方、ボアで見るとカレラの3.6リッターとケイマンSの3.4リッターはともに97で同じ。すなわち、このふたつのフラット6は共通ボアのストローク違いということになる。

細かいスペックを並べたのは、この数字上の違いがどのように実際のエンジンのフィールに現れてくるものなのか、それも今回の試乗会での注目ポイントだと思ったからだ。

着座位置はホイールベースのほぼ中央。そのすぐ後ろにフラット6が搭載される。



LSDが装着可能に

さて、エンジン以外の新型ケイマンの特徴についても見ていこう。外観ではフロントとリアのライト・ユニットが変更されている。ヘッド・ライトはダブル・チューブ式のカレラGTを想起させるものになった。テール・ライトは切れ長のデザインになり、LEDをうまく使ってシャープなラインを強調している。

そのほか、フロントではバンパーまわりに大幅に手が入れられている。左右の大型エア・インテークが、これまでより角張ったシャープなデザインとなり、その中には丸型フォグ・ランプに加えてLEDのポジショニング・ランプが装備された。

全体として、基本的なスタイリングに変化はないが、よりシャープに、よりアグレッシブになった印象だ。

内装での旧型との最大の違いはセンターコンソールのデザイン。旧型はシルバーだったが、新型ではエレガントなブラックとなり、スイッチ類の使い勝手も大幅に向上した。


内装での変更点は、センター・コンソールがこれまでのシルバーからブラックの新デザインに改められたこと。ステアリングも、PDK仕様では左右のスポーク上に押してアップ、引いてダウンのシフト・スイッチがつく新デザインになっている。

エンジン以外のドライブ・トレインの変更点は、7段PDKのほか、標準装備のマニュアル・ギアボックスがノーマルのケイマンもSと同じ6段になったこと。そしてもうひとつ、後の試乗で重要な進化のポイントだと知らされたのは、加速時22%、減速時27%のロック率を持つリミテッド・スリップ・ディフをオプション装着できるようになったことだ。

そのほか、サスペンションは増大したエンジン出力に適合するように新たなチューニングが施され、その結果、スポーツ性が向上するとともに、快適性も改善しているという。

また、パワーステアリングのアシスト量について、これまでは911と同じ設定だったのを、重すぎるというユーザーの声を反映して、少し軽くする方向で手直ししたのだとか。

写真はオプションのアダプティブ・スポーツ・シート。新型ではシート・ベンチレーションもオプション装着可能になった。


さらに言うと、リアの標準空気圧が、17インチ、18インチともに2.5バールから2.1バールに引き下げられている。タイヤが2010年から使用が規制される多環芳香族炭化水素(PHA)を含まない新開発の製品に変更されたのにともない、快適性の向上ところがり抵抗の低減を図るためにとられた措置だという。


リアをスライドさせながら前へ

今回、用意されていた試乗車はケイマンSのみ。しかも、そのすべてが7段PDK仕様で、アクティブ・サスペンションのPASMや車両設定をスイッチひとつでスポーティなものに切り替えるスポーツ・クロノ、さらにはLSDまでもが全車に装着されていた。試乗コースは、スペインの一般道と高速道路、山岳路を組み合わせており、スポーツカーをテストするのに申し分ない条件だ。

ホテルのエントランスを出て最初のコーナーで、まわりにクルマがいないのをいいことに、ステアリングを切ったまま、フロントのグリップを確保した状態で、思い切りアクセレレーターを踏み込んでみた。するとどうだろう、ケイマンSはリアを外にスライドさせながら、LSDをググッと効かせて、前へ前へと進もうとする実にアグレッシブな動きを見せたのである。その瞬間、私は思わず苦笑し、これはこれまでのケイマンSとは違う、と悟った。

白文字盤の大型3連メーターのデザインは基本的に不変。


誤解を恐れずに言えば、これまでのケイマンSはどちらかと言えばアンダーステア方向に躾けられた、どっしりとした安定感の高いスポーツカーだったと思う。別の言葉で言えば、必ずしも飛び切りの軽快感を持つような、危ういまでにシャープな切れ味を持っていたわけではないということだ。本格スポーツカーである911の弟分として、むしろ、ワインディングを適度に飛ばしながら、気持ち良く駆け抜けるような使い方に照準を合わせていたように思う。

それが、今回のマイナーチェンジでは、明らかにスポーツカー濃度を高める方向で軌道修正してきた。すなわち、俊敏さを増し、ともすればリアを流しながらアクセレレーターの操作で向きを変えていくような、アグレッシブな走りをも積極的に許容する方向に進み始めたのである。オプションでLSDが装着できるようになったのは、そういう積極性を象徴しているのではないか。

ケイマンSの直噴3.4リッターフラット6のカット・モデル。ブロックもヘッドもインテーク・マニホールドもオール・ニュー。


その一方で、快適性は格段に上がっていた。乗り心地が良くなっただけでなく、音もこれまで以上に洗練されている。すぐうしろから聞こえていた吸気音や補器類の作動音がなくなり、あくまでもピストンが回る機械音がそのまま聞こえている感じだ。新しい3.4リッターフラット6は回転フィールも抜群にいい。下からトルクがしっかり出ているだけではなく、許容回転数が旧型より200rpm高い7500rpmになっており、上まで回した時の吹け上がり感が旧型に比べて格段に素晴らしい。いや、旧型のみならずカレラの3.6リッター新フラット6と比べても、同じボアでストロークの短いこちらの方が、粒が弾けるような感じが強烈で、断然、味がいいように思えてならなかった。

固定式の大型リア・ウイングはオプション。ノーマルのリア・ウイングは120 /h  でせり上がり、80/h以下になると格納される。


ワインディングはともかく、高速道路でも、いや一般道を走っていてさえ、これまでとは違うスポーティな印象をずっと受け続けていた。安定感や重厚感が失せたというわけではない。それらと軽快感とのバランスにおいて、軽快感が増す方向に配合が変わったのだ。硬質で、剛性感が高く、それでいて俊敏。これはまぎれもないポルシェの走りだ。しかし、明らかに911とは運転感覚が異なっている。あのドンッと押し出すようなトラクションの掛かり方はない。もう少しソフトで、911に比べればやや物足りないが、その分軽快で、気楽に乗ることが出来る。

逆に鼻先の入り方は911より鋭い。旧型よりもさらにスッと入る印象だ。そして、そこから先、どうやってコーナーを駆け抜けていくか。911ほどの懐の深さはないまでも、腕に応じてかなり自在な走り方を許容するようになった。新型ケイマンSは見た目通りアグレッシブさを増し、911とは別の本格スポーツカーへの道を歩み始めたのだと思った。

文=村上 政(ENGINE編集部) 写真=ポルシェ・ジャパン(小川義文)

新型ポルシェ・ケイマンのおさえどころ
●ケイマンには2.9リッターポート噴射、ケイマンSには3.4リッター直噴の新フラット6搭載。
●ケイマン、ケイマンSともにダブル・クラッチのPDKをオプション搭載。
●ケイマンのマニュアル・ギアボックスは5段から6段に進化。Sは6段のまま。
●マニュアル、PDKのいずれのモデルもオプションでLSDが装着可能になった。

■ポルシェ・ケイマンS
駆動方式 エンジン・ミド縦置き後輪駆動
全長×全幅×全高 4347×1801×1306mm
ホイールベース 2415mm
車両重量 1350kg
エンジン形式 直噴水冷水平対向6気筒DOHC
排気量 3436cc
ボア×ストローク 97.0×77.5mm
最高出力 320ps/7200rpm
最大トルク 37.7kgm/4750rpm
トランスミッション 6段MT/7段PDK
サスペンション(前) マクファーソン・ストラット/コイル
サスペンション(後) マクファーソン・ストラット/コイル
ブレーキ (前後)通気冷却式ディスク/アルミ製モノブロック・キャリパー
タイヤ (前)235/40ZR18 (後)265/40ZR18
車両本体価格 830万円(6MT)/877万円(7PDK)

(ENGINE2009年2月号)

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