2024.04.13

LIFESTYLE

この家は捻じれてる? それとも捻れてない? 答えは写真で! 施主と建築家は同級生 長い友情と交わした会話の数が生きた理想の家とは?

広角レンズの悪戯でもなく、肉眼でも捻じれて見えるから、本当に不思議。

全ての画像を見る
スポーツカーと共に

advertisement


そんなMさんで意外だったのは、愛車遍歴にドイツ車が少ないこと。純粋にクルマが好きで、マツダRX-7に始まって次はユーノス・コスモと、最初の2台はロータリー・エンジン車。続いて唯一のセダンのメルセデス・ベンツE320の時期を経てフェラーリ328を。そこに加わったのが、サーフィンに出かける他、キャンプやアイス・ホッケーを楽しむため、大きな道具類を運べるジープ・グランド・チェロキーだ。以来チェロキーとスポーツカーとの2台持ち生活は10年以上になる。その後トヨタ86、アストン・マーティンV8ヴァンテージと乗り継いで、現在は964型のポルシェ911(92年製)に。かつて「930型に憧れていたが、より扱いやすい」一世代後のモデルを選んだ。手元に来て3年。通勤に使う他、週末の朝に首都高を一周したりと、日頃から911との生活を楽しんでいる。

964型のポルシェ911を選んだのは、同型のみを専門にレストアしている米国シンガー社の人気の影響もあるとか。


Mさんが家を建てることにしたのは、屋根付きの車庫を2台分確保するため。それまで同じ世田谷区のマンション住まいで、車庫は別途借りていたがこのままでは不経済だ。そこで2台分の車庫がある家を建てることにしたのである。

2台の車庫の他に、家作りで重要視したことのひとつが、効果的な空調設備。実は子供の頃に住んだ家が、冬になると廊下や風呂場が寒く、一軒家に対して良くない印象があった。そんな経験から、寒い冬も、どの部屋でも心地よく過ごせる家を強く望んだのである。

幸い魅力的な敷地が近くで見つかった。木々に囲まれた約190m2の土地である。こうして昨夏に完成したM邸のハイライトは、2階のリビング・ダイニング・キッチンからの眺めだろう。南側と西側の天井までの高さがある大きな窓の向こうに、外からは捻じれたように見えるバルコニーが配されている。このバルコニーの上部のラインが、光を取り込み近隣からの視線を遮るだけでなく、隣接する緑地の緑を切り取って見せ、晴れた日には遠くに富士山が見えるのだ。窓の外の景色だけ見ると、森の中の住宅のようである。

そして懸案だった空調は床下式を採用。冬は床下の空間を温め窓や壁の付け根のスリットから暖気が漏れ出る方式で、大きな2階の空間も1階の廊下もじんわりと温かく快適だという。

窓の向こうに上部のラインが傾いたバルコニーが見える。季節の良い時期はバルコニーで食事をすることも。右手奥の書机は父親から譲り受けたもの。

バルコニーが切り取る景色は額縁の絵のよう。

間取りも仰天もの


1階の間取りも大胆だ。この階にあるのは、玄関に寝室と書斎、そして水回りと収納。日本の住宅で大事にされる玄関の三和土(たたき)やホール部は小さく、そこから直接、扉のない大きなシュー・クローゼットとウォーク・スルー・クローゼットに通じている。この間取りはMさん一家の生活導線を考え、富永さんが練り上げたもの。日本の伝統建築からかけ離れたプランにもかかわらず実現できたのは、建築家・建て主が共に帰国子女だからかもしれない。

高校卒業後もMさんと富永さんの交友は続いていた。M邸の2階に置かれたソファーは、かつてMさんがマンションで暮らしていた時代に富永さんが選んだものだ。富永さんが設計した同窓生の家を訪れたことがあるので、どんな設計をするかMさんはよく知っていた。

ベッドルーム。東から南にかけて設けられた窓から朝日が差し込む。視線を遮るため、道路側(奥)に行くに従って窓は狭くなっている。


Iさんの書斎。こちらの窓も光を取り込むが視線を遮る形状。右手はウォーク・スルー・クローゼットに通じている。

このように建て主と建築家の関係が良好であることは、本当に大切だ。今回も家作りに際して、二人は随分と議論したという。Mさんは「却下された提案が殆どですが」と笑うが、どうしてどうして。富永さんが手掛けた住宅の中でもM邸は極めて個性的。代表作となる一軒ではないだろうか。富永さんは「年齢を重ねたことで、クライアントの要望をより設計で表現できるようになった」と語る。二人の長い友情と交わした会話の数が、素敵な家を生み出したのは間違いない。

文=ジョー スズキ(デザイン・プロデューサー) 写真=田村浩章

捻じれた構造の家に見えるが、それは目の錯覚。広角レンズの悪戯でもなく、肉眼でも捻じれて見えるから、本当に不思議。斜面を使った地下1階部分はRC造。今後邸内の植物が育てば、雰囲気はさらに良くなるだろう。


■建築家:富永哲史 1967年東京生まれ。父親の仕事の関係で少年時代をサンフランシスコで過ごす。東海大学大学院を修了後、YAS都市研究所勤務を経て独立し、富永哲史建築設計室を主宰。美意識を感じさせるシンプルな意匠の中に、住みやすさを盛り込んだスタイルが大きな特徴。近年は事務所を巣立った20代の建築家、小野里紗・名畑碧哉とのユニット、n o t architects studioで手掛けたフレッシュな建築(写真「風景を掬う小さなイエ」)が話題に。Photo: Yasuhiro Takagi


■ジョースズキさんのYouTubeチャンネル、最高にお洒落なルームツアー「東京上手」!
雑誌『エンジン』の大人気企画「マイカー&マイハウス」の取材・コーディネートを担当しているデザイン・プロデューサーのジョースズキさんのYouTubeチャンネル「東京上手」。建築、インテリア、アートをはじめ、地方の工房や名跡、刺激的な新しい施設や展覧会など、ライフスタイルを豊にする新感覚の映像リポート。素敵な音楽と美しい映像で見るちょっとプレミアムなルームツアーは必見の価値あり。ぜひチャンネル登録を!

◆「マイカー&マイハウス クルマと暮らす理想の住まいを求めて」の連載一覧はこちら!


(ENGINE2024年4月号)

無料メールマガジン会員に登録すると、
続きをお読みいただけます。

無料のメールマガジン会員に登録すると、
すべての記事が制限なく閲覧でき、記事の保存機能などがご利用いただけます。

いますぐ登録

advertisement

PICK UP



RELATED

advertisement

advertisement

PICK UP

advertisement