2024.06.23

CARS

屋根開きと屋根有り、どちらの方が高性能だと思いますか? マクラーレンの750Sのクーペとスパイダーを乗り比べる!

スペック上では横並び

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村上 というわけで、様々なクーペとオープンの楽しみを、どっちがいいか悩みながら考えてみようという特集なわけですが、さて、我々が今日試乗してきた2台の750Sはクーペとスパイダーと呼ばれている。

大谷 マクラーレンは初作の12Cをリリースした当時から、このクーペとスパイダーという言い方をずっと続けていますね。ちなみに、マクラーレンは“spider”派で、とある試乗会のプレゼンテーションでは、クモのように背の低いスポーツカーを意味しているという説明がありました。そもそもマクラーレンの場合、クーペもスパイダーも全高は変わらないし、キャビンから覗き込んでもソフトトップを支える支柱は見当たらない。そして、これが何よりも重要なポイントですが、私自身は、12C以来、スパイダーが用意されているマクラーレンについてはすべてクーペとスパイダーの両方を試乗してきましたが、その差は恐ろしく小さいというか、まったく感じられなかったということです。

ディヘドラル・ドアは、クーペでも中央の縦の柱1本を残してルーフ両側が跳ね上がるので、乗り降りはし易くなっている。

村上 それはやっぱり、マクラーレンの全モデルに用いられているカーボンモノコックのおかげなのかな?

大谷 まさにそれです。というのも、マクラーレンのカーボンモノコックはバスタブ形状をしていて、ルーフ部分にボディ剛性を受け持つ構造体が存在していないからです。

村上 それでも、720Sや750Sのクーペには、ルーフの中央部分に前後をつなぐ支柱のようなパーツがあるじゃないですか。

大谷 ええ、ありますが、あれはあくまでもディヘドラル・ドアのヒンジを支持するのが目的で、ボディ剛性には影響がないというのがマクラーレン側の説明でした。

村上 へー、それは驚きです。

大谷 そうなんですよ。だから、ボディについては基本的に剛性の強化も不要で、したがってクーペに対する重量増は最小限で済んでいる。重量はたったの1440kgで、クーペよりも50kg重くなっているだけです。

村上 たったの50kg! でもレーシングカーのような性能を誇るマクラーレンにとっては50kgは決して小さくはないのでは?

ドアが斜め上方に跳ね上がるのはスパイダーもクーペと同じだ。ただし、ルーフ部のヒンジが無くなりフェンダー部だけで支えるように構造が変更されている。

大谷 少なくともスペック上では、0 -100km/h加速は2.8秒で横並びだし、0 -200km/h加速でもクーペが7.2秒でスパイダーが7.3秒と、その差はコンマ1秒でしかない。

村上 それだと自分で乗っても違いは感じられないだろうね。

大谷 ですよね。しかもボディ剛性は変わらない。つまり、クーペに対して失っているものが実質的になにもないのが、マクラーレン・スパイダーの特徴なんです。

村上 なるほどね。

大谷 しかも、マクラーレンはクーペとスパイダーでデザインがほとんど変わりません。

村上 エンジン・フードの部分が、クーペはハッチバック風、スパイダーはクーペ風になっているけれど、まあ、そのくらいだよね。

大谷 スパイダーの場合には、フライング・バットレスといって、真横から見るとまるでファストバックのように思えるパーツを取り付けることで、見た目の違いをなくしている。このフライングバットレスには、エアフローを整流する役割もあります。

村上 マクラーレンは、すべてのデザインに理由があると言っている。

クーペではシートの後ろのリア・ウインドウとエンジン・カバーの間に僅かな荷物スペースがあり、そこに付けられたガラス窓からエンジンを覗ける。

どこまでいっても悩ましい!

大谷 やっぱり、その辺はF1チームと密接な関係にある影響かもしれません。だから、私はオープン化されてもなにも失っていないマクラーレンのスパイダーが好きで、「もしも自分が買うことがあったらスパイダー」と決めていました。

村上 つまり、オオタニさんはオープン派なんですね。

大谷 ええ。まあ、正確には「マクラーレンに限っては」という注釈付きですが、ただ、今回の試乗で、その考え方が少し揺らぎました。

村上 というと?

大谷 2台並べてみると小さな違いがあることに気づいたからです。

村上 どんな違いがあったの?

大谷 たとえば、先ほどスパイダーにはフライング・バットレスがついていて、サイドビューはクーペと変わらないと言いましたが、運転席から見ると、シートのヘッドレスト後方にフェアリング状の盛り上がりがあって、斜め後方の視界がクーペほどよくないことに気づきました。



村上 なるほど。確かに高速道路の合流などでは注意が必要になる。

大谷 それでも、他のミッドシップスポーツに比べれば、はるかに視界は良好ですけどね。

村上 私自身もクーペとスパイダーではちょっと違うなあと感じました。

大谷 どこが違いましたか?

村上 剛性も速さもまったく変わらないという話でしたが、実際に乗ってみると、やはりスパイダーの方にはオープン由来と思われる振動や騒音があって、これはちょっと気になると思った。それにマクラーレンって、そもそもがグローブボックスもないくらいにピュアでストイックなスポーツカー・メーカーじゃないですか。そんなマクラーレンがオープンを作るって、堕落とまではいわないけれど、ちょっとふさわしくない感じがしてしまう。たとえば富士のストレートで270km/hから急減速しても、ノーズダイブも起きなければふらついたりもしない。そんな極限の走りを楽しむには、やっぱりクーペだと思うわけですよ。

大谷 でも、同じようなブレーキングはスパイダーでも楽しめますよ。

村上 たとえそうだとしても、先週は富士、今週はもてぎ、来週は鈴鹿みたいに、全国のサーキットでピュアに走りを楽しみたいような人には、やっぱりクーペをお勧めしたい!

大谷 そんな人には750Sより765LTがお勧めですが、こちらにもスパイダーとクーペの両方がある。

村上 つまり、どこまでいっても悩ましい問題であるということだね。

■マクラーレン750Sクーペ(スパイダー)
駆動方式 ミドシップ縦置きエンジン後輪駆動
全長×全幅×全高 4569×1930×1196mm
ホイールベース 2670mm
車両重量(車検証) 1390kg(1440kg)
エンジン形式 直噴V8DOHCツインターボ
排気量 3994cc
ボア×ストローク 93.0×73.5mm
最高出力 750ps/7500rpm
最大トルク 800Nm/5500rpm
トランスミッション デュアルクラッチ式7段自動MT
サスペンション(前) ダブルウィッシュボーン/コイル
サスペンション(後) ダブルウィッシュボーン/コイル
ブレーキ(前後) 通気冷却式カーボンセラミック・ディスク
タイヤ (前)245/35ZR19、(後)305/30ZR20
車両本体価格(税込み) 3930万円(4300万円)

話す人=大谷達也(まとめも)+村上 政(ENGINE編集長) 写真=茂呂幸正

(ENGINE2024年6月号)

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