村上 さて、ダラーラ・ストラダーレも含めた3台に同じ場所で乗ったわけだけど、世に出た時期、歴史的な順序に納得するものがあった。ロータスはしなやかでロールもけっこうする。
大井 エリーゼはもともとピッチ変化もロール量も大きいですよ。そういう仕立てのクルマ。
村上 そこへいくと、アルファはあんまりロールしない。
齋藤 4Cはスポーツ・パックだから、サーキット走行に焦点を合わせた脚の仕立てが施されている。スプリングもダンパーも相応に締めてあるし、リアには標準サスペンションには装備されないスタビライザーも加えられている。ロールは小さいよ。
村上 それでもダラーラに比べれば、ロールは感じるんだけどね。
大井 ここでダラーラに話を振らない方がいいですよ。ややこしくなるから。でね、エリーゼなんだけれど、いやぁ、いいクルマだなぁ、って、しみじみと思った。
村上 本当に良かったよね。
齋藤 さすがに長くやってきただけのことはある。注文をつけたくなるようなところが皆無。お見事。クルマの動きに整合性、一貫性があって、軽やかかつしなやか。爽快感横溢。
大井 まずエンジンが気持ちいい。一瞬、自然吸気だったかと思うぐらいに吹け上がり感がナチュラルで、回転域を問わずにレスポンスが素早い。直線性に優れたトルク・カーブも扱いやすい。ベース・エンジンが普通のやつだから上の伸びは大したことないけれど、パワーバンドが広いのもいい。そして、脚がいい。ステアリング操作、スロットル操作、ブレーキ操作に対して、そのままきちんと姿勢を作って反応してくれる。サスペンションがそういう仕立てになっている。だから、それを操りながらクルマをバランスさせながら走るという、スポーツカー・ドライビングの醍醐味が堪能できる。高G領域でも破綻する気配すら見せない。さすがは老舗、と思ったよ。ああいう走りの楽しさを知っている人たちが作っていて、その楽しさを受け取る方も理解している。日本にそういう人がたくさんいるっていうのは、なんか誇らしいよね。
村上 街の中でもワインディング・ロードでも、コーナーをひとつ曲がるだけで楽しい。アルピーヌのA110なんかもそういうクルマ。ちょっとサイズは大きくなるけど、ポルシェのケイマン/ボクスター系にもそういうところがある。こうした傾向のクルマが日本人は好きなんだよ。なぜなら日本はアウトバーンを持ったことがない国だから。高速でズバーンと行くことより、英国的な曲がりくねったB級ロードのような道を駆けぬけることの方にシンパシーを感じるんだと思う。その点で、アルファ・ロメオよりロータスの方が、いっそう楽しめるクルマだと思った。
齋藤 エリーゼは、もうとことん開発され尽くした完成度の高いクルマだなぁと感動すら覚えたよ。最初のエリーゼはこういう乗り物じゃなかったからね。ずっと危うかった。一方でさ、4Cについてはさ、クーペを出して、スパイダーを追加して、それ以後、走りの部分に関してはほとんど手付かず。チューニングを詰めていくという開発作業は、事実上何もなしでしょ。イタリアらしい。
大井 4Cを走らせると、クルマのなかで4輪の位置に対してかなり前の方に自分が位置しているという気がする。そこは現在のピュア・レーシングカー的とも言えるのかもしれないけど、エリーゼとはかなり異なる感覚であるのははっきりしている。
齋藤 同じようなサイズで、同じような機械レイアウトでも、ロータスの方が、クルマとドライバーの関係がより古典的だと感じた。
大井 ロール軸やピッチング軸に近い所に人間が位置している感がロータスは強いんだよね。
村上 なるほどねぇ。
大井 4Cの魅力のひとつは、あのターボ過給エンジンの大トルクがもたらす爆発的な加速感だと思う。それが状況によっては操り難さにも繋がるにしてもね。
村上 僕は、扱いの難しさの方を、強く意識されられましたね。
齋藤 4Cは考えながら走らせる必要がある。感覚だけに頼った走り方では、美味しいところを簡単には味わえない。ロータスが少なくとも小排気量の4気筒系ではスーパーチャージャーに拘るのは、あのリニアリティの良さがあるからなんだと思う。ボトム・エンド付近も太って使えるようになるから、むしろ自然吸気以上に直線性が向上するでしょ。
大井 その辺りは、過渡域の特性変化が急激なアルファの方が逆に古典的だということもいえるかな。限界付近のコントロールも少し難しい。
齋藤 詰めの余地が色々残っている。エリーゼだって始めはそうだったよ。
村上 アルファ・ロメオ4Cは、いってみれば、未完の大器なんだな。
大井 手に入れてからのチューニング代はデカイと思いますよ。脚のセッティングとか細部の詰めの部分で。
村上 ポテンシャルはどう考えても、エリーゼに優るものがあるよね。
齋藤 クルマはチューニングだ、って改めて思った。
村上 エリーゼはその賜物だね。
■ロータス・エリーゼ・ヘリテージ・エディション
駆動方式 リア・ミドシップ横置きエンジン後輪駆動
全長×全幅×全高 3800×1720×1130㎜
ホイールベース 2300㎜
トレッド 前/後 1455/1505㎜
車両重量 940㎏(前360㎏:後580㎏)
エンジン形式 直列4気筒DOHC 16V機械式過給
総排気量 1798cc
ボア×ストローク 80.5×88.3㎜
最高出力 220ps/6800rpm
最大トルク 25.4kgm/4600rpm
変速機 6段MT
サスペンション 前/後 ダブルウィッシュボーン式/ダブルウィッシュボーン式
ブレーキ 前後 通気冷却式ディスク
タイヤ 前/後 195/50R16W / 225/45R17W
車両価格(税込) 789万5250円
■アルファ・ロメオ4Cスパイダー・イタリア
駆動方式 リア・ミドシップ横置きエンジン後輪駆動
全長×全幅×全高 3990×1870×1190㎜
ホイールベース 2380㎜
トレッド 前/後 1640/1595㎜
車両重量 1060㎏(前400㎏:後640㎏)
エンジン形式 直列4気筒DOHC 16V直噴ターボ過給
総排気量 1742cc
ボア×ストローク 83.0×80.5㎜
最高出力 240ps/6000rpm
最大トルク 35.7kgm/2100-4000rpm
変速機 デュアルクラッチ式6段自動MT
サスペンション 前/後 ダブルウィッシュボーン式/ストラット式
ブレーキ 前後 通気冷却式ディスク
タイヤ 前/後 205/40ZR18Y / 235/35ZR19Y
車両価格(税込) 1130万5556円〔輸送料+予備検+11万円〕
話す人=大井貴之+村上 政(ENGINE編集長)+齋藤浩之(ENGINE編集部、まとめも) 写真=望月浩彦
(ENGINE2020年5月号)
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