2020.09.04

CARS

岩のように硬く重いクラッチと背後で唸る12気筒エンジン、容赦のない異様な熱気に「えらいもん買うてしもうたかも」と思った! 自動車ジャーナリストの西川 淳さんの人生を楽しくしてくれたクルマとは

若かりし頃の西川淳さん

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社会人になりバブルも弾けて“夢のまた夢”が“ちょっとした夢”となって急に降りてきた。円高が進み海外での価格が恐ろしく安くなったのだ。FAXと手紙のやりとりでカリフォルニアの有名店からBBを買った。365に決めた。初期型がいいという高尚な話じゃない。約9万ドル(当時は1$=80円台)と安かったからだ。とはいえ29歳には大金で借金してかき集めた。

現物確認もせずに個人で中古並行輸入したBBが無事、日本にやってきた。運転席に座りクリーム・イエローのエンブレム越しにオレンジで刻まれた330km/hの速度計を見たときの喜びといったら! けれどもそんな喜びも束の間、引き取って自宅に戻る道中には246号線の渋滞にハマって、岩のように硬く重いクラッチと背後で唸る12気筒エンジン、容赦のない異様な熱気に「えらいもん買うてしもうたかも」と思ったものだった。

案の定、ガレーヂに仕舞い込んだままの時間が年々長くなっていく。クルマ雑誌の編集の仕事が忙しくなったというのもあった。いつしかBBはほとんど走らなくなっていた。

もう一度元気に走らせたい!そう思ったのは会社を辞めてからだった。いっそレストアをと思っている、と旧知の編集者に漏らすと、それをネタに連載しないか、と提案された。これがフリーランサーとして初めての仕事、初めての連載となった。

サラリーマン時代にBBを買い、多くの知己を得た。クルマを媒体に望めばどんな人たちにもアクセスできたのだ。良き理解者に恵まれた。フリーランスになった後もクルマを通じて知った人たちは変わることがなかった。今でも筆者の日々を楽しく支えてくれているのはそうして知り合うことのできた仲間たちだ。

人生を変えたBB。黄と黒の2トーン・カラーの美しい駿馬が“人生の仲間”というこの上なき財産の礎だった。

文=西川 淳(自動車ジャーナリスト) 写真=芳賀元昌

◆モータージャーナリストや著名人が、人生で出会った思い出のクルマ、衝撃的なクルマを語った「我が人生のクルマのクルマ」の連載一覧はコチラ!

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(ENGINE2020年7・8月合併号)

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