驚きのアウディのモーター4WD——アウディやほかのブランドにはポルシェのe-フューエルは使わないんですか?
清水 アウディのCEOは新しい内燃エンジンの開発はもうしないって言ったそうだよ。既存のエンジンのブラッシュアップはしていくそうだけど。アウディは北ドイツでやっていたe-フューエル工場は売却しちゃったから、この分野からは撤退みたいだね。
——その代わりにBEVのA6、Q6、Q4……のe-トロン・シリーズが出てくるわけですね。ところでRS GT e-トロン、乗ったらどうだったんですか? BEV嫌いと噂されている清水さんの意見をぜひ聞いてみたい。
アウディRS GT e-トロン
清水 もうBEV嫌いなんて言ってられないと思ったよ。すごかった。1980年に登場した、初の乗用のフルタイム4WDの初代アウディ・クワトロに乗った時の衝撃ふたたび、っていう感じ。40年経って、新しいクワトロに出会えた、ともいえるかな。乗り心地はタイカンよりもいいし、何よりカッコイイ。速さはもう十分。最高速はJARIの高速周回路でメーター読み267km/hだった。
——それはすごい。何がそんなに画期的だったんですか? モーターによる4輪の駆動制御技術ですか?
清水 クルマってコーナーの旋回中、タイヤの軌跡って4つとも違うよね。これまでいろんなメーカーが様々な技術を用いて機械的な方法で4輪に駆動力を振り分けてきた。でも、インディペンデントにモーターでタイヤを回してあげることができるようになって、メカニカル4駆では超えられなかった扉が、バーンって開いたんだよ。ただ……。
——ただ……?
ホンダNSX
フェラーリSF90
清水 モータによる駆動力の世界を切り開いたという意味では、RS GT e-トロンよりも2代目のホンダNSXが最初だったんだけどね。あれは前の2輪だけ電動モーターだったし、チューニングが煮詰め切れていないところはあったけど、ホンダには座布団十枚あげたいよ、ホント。
島下 アイディアはホンダで、熟成の続きはフェラーリがやっている。だってSF90って、基本的な考え方はNSXと同じじゃないですか(笑)。
清水 モデナにもバイザッハにもナンバーのついたNSXがあるらしいからね(笑)。話がそれちゃったけど、BEVはバッテリーで重心が下がるし、駆動方法もモーターで今までできなかったことができる。パッケージングもそうだよね。なんで今まで小型車でFF(フロント・エンジン&フロント駆動)が多かったかといえば、そうやって配置すれば全長に対して室内を大きく取れるから。だけどモーターは小さいから、極端なことを言うと何処にでも置くことができるから遙かに自由度が増した。だからホンダeやフォルクスワーゲンID.3なんかはFFじゃなくてRR(リア・モーター&リア駆動)になった。これなんてもう、ナロー・ポルシェの生まれ変わりだよ。
一同 笑。
清水 ついでにフロントにもモーターを付ければカレラ4にもなるよ(笑)。
一同 爆笑!
島下 フェルディナンド・ピエヒ博士はもともとup!でRRをやりたかった。だからup!はプロトタイプの時はRRだった。ところが市販車は普通のFFになっていて……。
清水 フォルクスワーゲンはピエヒさんにモーターになったらRRにしますから、って納得してもらったんじゃないかな。
BMWとメルセデス・ベンツのBEVはどうなっているのか?清水 そういえば島下さんに聞きたいんだけど、BEVの先駆者といえば、BMWだったはずなんだけど?
島下 i3ですね。同じiシリーズでもi8はプラグイン・ハイブリッドでしたが。
清水 i3のカーボン車体の製造は水力と風力発電由来だし、95%はリサイクルできる素材だった。工場も完全に新しくつくっていたのに……。でも、i3とi8の後は、ちょっとどうなるか先が見えなくなった。収益化がうまくいかなくて、その反動でBEVに対して慎重になってしまったのかな。i3とi8はちょっとタイミングが早すぎた?
——でも今後はiXや、iX3、i4がスタンバイしていますよね。
島下 そうなんですが、中身は電気だけど、どれも専用のプラットフォームじゃないし、正直i3やi8ほどプログレッシブな感じはしない。上層部と意見の食い違いがあって、最初のiシリーズの開発メンバーがごっそり抜けてしまったのが原因らしい。あれで5年は遅れてしまった。ようやく体制を立て直して、再スタートして、いまは猛追しているという感じでしょうか。
BMW iX
BMW i4
BMW iX3
——電動化に突き進むアウディ、911だけ内燃機関を残すポルシェ、追いかけるBMW……あと、残るのはメルセデス・ベンツですね。
清水 アウディとは違うアプローチだけど、メルセデスも本気だね。Sクラスを出して、まだ半年も経っていないというのにEQSを出してきた。
島下 技術的なことよりもすごいなと思うのは、“いま”“ここ”にEQSがあることですね。今後BEVが主流になるかどうかは誰も分かりませんが、BEVでも内燃エンジン車でも、世界最高峰のものをこのタイミングで出した。それがすごい。EQSの最初の目的はテスラ・イーターをつくることだったと思うんです。でも、今やテスラなんか目じゃなくて、BEVでも世界を制覇しよう、みたいな勢いですよ。それにEQSって、実はハッチバックなんです。BEVみたいな新しいものを求める、アクティブなライフスタイルの人はこっちでしょ? と、彼らは新しい提案をしてきたと考えるべき。Sクラスは絶対にセダンであることをやめられませんからね。
清水 RS GT e-トロンもそうだし、タイカンもハッチバックだね。後席を倒せばゴルフバッグも入る。
島下 もちろんEQSにも余裕で入りますよ(笑)。しかもこうしたプレミアムなBEVたちはどれも4輪駆動が基本だからSUVの代わりにもなる。これだけSUVが流行っている中で、新しい定義のセダン型ハッチバックBEVを選ぶことは、自分のスタイルを表現する1つの手段になるんですよ。みんなSUVでみんなGクラス、みたいな時代が変わるきっかけになるかもしれません。
清水 BEVがクルマの新たな流れをつくり出すことになる。面白いねぇ。
——この続きは、後篇で。
メルセデス・ベンツEQS
清水和夫 国際モータージャーナリスト
島下泰久 モータージャーナリスト
(ENGINE WEBオリジナル)