2022.02.19

CARS

「半端なクラッシュだけはするな」26歳の誕生日プレゼントにとポルシェを貸した故徳大寺有恒氏の言葉がカッコいい 自動車ジャーナリスト、大井貴之の「俺の911ターボ物語」


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実は第一印象からして、違和感だらけだった。最初のドライブは、クルマを引き取った名古屋から東京までの道のり。ついにオーナーになった! と慣れない左ハンドルやでっかいオーバーフェンダーに気を遣いながら東へ向かっていると、シャツの肘の部分が濡れている。どこから水漏れしているのかと探っていくと、脇の下から流れ出した汗だった。冗談のような話だが、暑さなどまるっきり感じていない状態での出来事だ。チョロチョロ、フラフラ、真っ直ぐ走らないことによる緊張が原因の冷や汗である。これは相性が良くないタイヤが悪さをしていたようで、当時ブリヂストンのフラッグシップだったエクスペディアに変更したら一発で解消! ここまでタイヤにシビアなクルマを経験したことはなかった。

苦労したのはそれだけじゃない。3.3リッターという大排気量にも拘わらず、ターボ・ラグは痺れるほど強烈だった。ターボが効いたと思った時にはシフト・アップを強いられる。コーナーではアンダーステアとオーバーステアを行ったり来たり。加速していると高速のレーン・チェンジさえ滑らかに動かせない。



何よりもショックだったのは、自動車雑誌では世界一! と絶賛されていたブレーキだ。これが最悪。ブレーキング競争ができるのはタクシーくらい。あっという間にフロントがロックして止まらない。想像以上に走りが美しくない。GT-Rの足元にも及ばないボロさ。やっぱりこのクルマは過去のものだと確信した。

さっさと手放そうかとも考えた。しかし全財産を注ぎ込んだクルマだ。スタイリングには惚れ込んでいたので、そう簡単に手放す気にはなれなかった。しかし、そのお陰でこのクルマから多くのことを学んだ。

ドライビングの先生

911ターボと付き合うことで学んだのは、まず、クルマのチューニングだ。タイヤの変更でこれほど走りが変わるというのも初めての経験だったが、すぐにロックしてしまうブレーキも、社外品に変更されていたパッドの特性が悪さをしていたようだ。強い違和感を感じていたステアリングは、メーターの視認性と乗降性向上のためにセンターがずらされていたことが原因。どれを取っても今のオレであれば原因究明に時間は掛からない内容だが、ABSもパワステも装備されていない930型だからこそ、若かりしオレでも気づくことができたのである。

911ターボのおかげで、何よりも変わったのがドライビングだ。最近の911は特別なテクニックを必要としないが、930型、特にターボは厄介者だ。その諸悪の根源がピッチング方向の動きが大きいところにある。このクルマをスムーズに走らせるために必要なのは、繊細なアクセル・コントロールだ。それまではアクセル・コントロールと言えば踏み方の話だったのだが、このクルマをスムーズに走らせるためにはオフ側、つまり戻し方のコントロールがそれ以上に重要だった。パッドの選択で改善されたブレーキも、踏み方1つで大きく変わることを知った。ちょっとした操作で大きな荷重の変化が起こり、ハンドリングに影響が出る。逆に考えれば、コツさえ掴んでしまえばちょっとした操作だけで車両姿勢を操ることができる。そこを意識し始めた途端、911ターボとの距離は一気に縮まり始めた。



それからは蜜月の日々だった。北は北海道最北端・宗谷岬、西は広島、伊豆、八ヶ岳、能登半島……911ターボとたくさんの想い出を作った。走れば走るほどドライビングは磨かれ、ドライビングが磨かれれば磨かれるほど、911が名車と言われる理由を実感した。

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