ソアラではなく、ジャガー購入のきっかけになったのは、『あぶない刑事』で共演していた舘ひろしさんの何気ない言葉だったという。「当時、舘さんはパリからニューヨークに行くときに必ずコンコルドに乗るとおっしゃったんです。舘さんのような若い日本人がコンコルドの機内に入ると、“飛行機間違えてるよ”と、ほかの乗客に言われたりする。それでも、コンコルドに乗る。ずっと分不相応だとか、生意気だと言われることをやってきたけど、そうやって背伸びしていると、いつの間にか自分の身の丈もそれに合っていくんだというようなことを言われたんです。なるほど。自分もジャガーを買っちゃおうかなと」当時いろいろとうまくいかないことが重なったのも、ジャガー購入の動機だったと言う。「若山富三郎さんのクルマを見たときは、いつか自分を褒めてあげられる仕事をしたときのご褒美として、このクルマを買おうと思ったんです。でも、欲しいと思っているものを手に入れることで、まるでいいことが起きたような気分に自分を仕向けられる。そんな期待もありました」あこがれのクルマは想像以上にステキだった。「当時の僕としては大人のクルマという感じがしました。運転席に座るだけで、地続きの日常とは違う世界を感じることができた。ソフトな乗り心地などは、30年経ったいまでも変わりません」
いまでも撮影現場に乗っていくことが多く、オドメーターは20万kmを超えている。故障も人に言われるほどはなかった。とはいえ、撮影現場が河原だったり、未舗装路が続く山の中だったりするときのために、常にもう1台4WDを持つようにしている。スバル・レガシィ・ツーリングワゴン、三菱パジェロ、日産ステージアなどを乗り継ぎ、現在はメルセデス・ベンツR350 4マチックを所有している。「4WDの方は次を考えていて、自動車ジャーナリストの方々が絶賛している三菱アウトランダーPHEVが気になっています。でも、ジャガーを乗り換えようと思ったことはありません。あのクルマより好きなクルマが僕には現れなかった」どこがそんなにいいんですか?「あのカタチですね。昔からロング・ノーズ&ショート・デッキがカッコイイと刷り込まれてきた気がします。昔はお酒が入ると、夜中にガレージに見に行きました。ちょっとしゃがんで低いところから見ると、なおさらカッコイイなあ、なんて」ジャガーの乗り味は現場に入るときの役作りにも役立っている。「気分を落ち着かせる乗り味なので、演じる前の状態としてはすごくいいんです。穏やかな状態で現場に入れます。アライさんもわかると思いますけど、飛ばす気にならないでしょ? 煽られてもどうぞお先にという気分になる」これは同じクルマに乗る者として、本当によくわかる。「自分にとってジャガーXJ-Sコンバーチブルこそが、わが人生のクルマのクルマですね。乗り始めてからの30年間にあったことを考えると、本当にともに走ったという感覚があります。最近、どういう人間であるかは、その人のクルマで見られるという気さえしています」背伸びをして買ったジャガーに似合う人になりましたか?「当初、こっちは普段着、向こうはタキシードみたいな感覚がありました。でも、30年付き合って自分のスタイルで乗れるようになった。クルマの方も僕に歩み寄ってくれて、違和感がなくなったのかも」仲村さんは謙遜してそう言ったけれど、同じクルマに乗る私が嫉妬するほど似合っていることは、写真の通りである。文=荒井寿彦(ENGINE編集部) 写真=筒井義昭 スタイリング=中川原 寛(CaNN) ヘアメイク=宮本盛満
(ENGINE2022年2・3月号)
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