それにしても、この新しいV6エンジンはなんと素晴しい吹け上がりを持っているのだろう。右足とエンジンが繋がっているんじゃないかと思うくらいレスポンスが良く、踏めばターボ・ラグなど微塵も感じさせることなく吹け上がっていくから、ついつい回したくなる。そして回すと5000回転を超えたあたりからそれまでのバリトンがどんどん甲高い音に変化して行って、最後はクォーンという快音を撒き散らすのだ。もう、いつの間にか笑いながら高速道路を矢のように疾走していた。しかし、さらに驚くべきは山道での走りの楽しさだった。これまでのベスト・ハンドリング・フェラーリではないかと思えるくらいに良く曲がるのだ。ホイールベースの短さが効いているのと、重心の低さのおかげもあるのだろう。加えて、エンジンのリニアな吹け上がりが楽しさに拍車をかけている。電気モーターがターボ・ラグを消してくれているのだろうが、そうだとしても、そもそものV6の素性が良くなければ、この気持ち良さは実現できないだろう。唯一、気になったのはブレーキで、微妙な領域でのフィールが少し曖昧な感じがした。SF90に続いてブレーキ・バイ・ワイヤーを採用したというが、踏んだ時に限界がわかりにくいのと、微妙に抜いた領域でのコントロールがしにくいように思った。それが顕著に感じられたのは午後のサーキット走行時で、正直なところサーキットで乗って、意外に重いクルマだったのだと気づいた。よく考えてみれば、モーターや電池を積んでいるのだから、そんなに軽いわけがない。しかし、それでも公道では実際より軽く感じられるくらい上手に、エンジンとモーターが連携して仕事をしていたのだろう。それだけに限界領域を使うサーキットではブレーキが重要になるが、私にはうまく使いこなすことができなかった。結果として296GTBは、サーキットよりも公道で“ファン・トゥ・ドライブ”を満喫するのにこそ、ふさわしいスポーツカーだと私は思ったし、フェラーリの開発意図もまずはそこに焦点を合わせているのだろう。その点では、私がこれまでに乗った中のベスト・フェラーリだと断言できる。こんなに乗りやすくて速く、しかも快適なフェラーリはかつてなかった。新時代フェラーリの幕開けを飾る傑作が現れたのだ。▶「フェラーリのおすすめ記事」をもっと見る文=村上 政(ENGINE編集部)写真=フェラーリS.p.A.
■フェラーリ296GTB駆動方式 ミドシップ縦置きエンジン+電気モーター後輪駆動全長×全幅×全高 4565×1958×1187mmホイールベース 2600mm車両乾燥重量 1470kgエンジン形式 バンク角120度V6DOHCツインターボ排気量 2992cc最高出力 663ps/8000rpm最大トルク 740Nm/6250rpmシステム最高出力 830ps/8000rpm(モーターは167ps)トランスミッション デュアルクラッチ式8段自動MTサスペンション(前) ダブルウィッシュボーン/コイルサスペンション(後) マルチリンク/コイルブレーキ(前後) 通気冷却式カーボンセラミック・ディスクタイヤ (前)245/35ZR20、(後)305/35ZR20車両本体価格(税込) 3710万円(ENGINE2022年5月号)
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