2023.05.28

CARS

2代目ルノー・カングーを仕事の道具として使い切る! 絵画保存額装家のオーナーのプロ目線のクルマ選びに思わず納得!!

黄色のフィアット・パンダ、ワイン・レッドのプジョー206、そしてルノー・カングーとオーナーの工藤さん。

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かつてはVWを何台も乗り継ぎ、クルマは仕事と生活のための道具、と割り切ってきた工藤さん。しかしプジョー206との出会いがきっかけでそうした考えは、どうやら少しだけど、変わったようである。

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絵画保存の世界に生きるひと

畑の中の一本道を進んでいくと、森の入口に銀色の細長い建物があった。その前にちょっと旧いフランス車とイタリア車が3台並んでいる。今どきのクルマに比べると穏やかな表情をしているからだろうか。なんだか優しく出迎えられたような気分になる。黄色のフィアット・パンダ、ワイン・レッドのプジョー206、そしてルノー・カングー。カングーは一見ただの銀色のようだけど、陽の加減で色合いが絶妙に変化し、背景の建物と相性がいい。まるでお洒落なカフェのようだ。

7年前に購入したという2代目ルノー・カングーは自然吸気1.6リッターの5段MT仕様。



チャイムを鳴らしてしばし待つと、主の工藤正明さんが姿を現した。建物内の一番手前にある広い部屋には巨大な作業台が3つあり、壁際に大小の木材と、作業毎にきちんとまとめられた書類ケースと、木工用の道具たちが整然と並んでいた。木材の中には、114年ものという朴の木の、分厚い板もあった。日本刀のさやとしても使われ、金属を腐食しない性質を持っているという。そして工具の前には、いくつもの額縁のようなものがつり下がっていた。

古い絵画を修復することは比較的知られているけれど、絵画を入れて飾り、時に運んだり保管するための額縁の修復について語られることはまだまだ少ない。額縁もまた絵画同様、その時代を語る生き証人であり保護保存すべき存在なのだが、当時のままでは使われていた釘や接着剤によって、額縁自体が絵を劣化させてしまうこともあるという。それを防ぐため、主に額縁の裏側の構造部に最新のマテリアルを用いて修復する“保存額装”という考え方をいち早く提唱したのが工藤さんだ。彼はこれまで三菱一号館美術館のルノワール、セザンヌ、モネ、岐阜県美術館のルドン、ゴーギャンなど数多くの名画の額装の修復を手がけてきた、絵画保存の世界に生きる技術者であり、ここはその工房なのである。

仕事に使うことをいいわけにして購入したというニコンF4や、ローライフレックス2.8fなどのようなカメラは好きだけれど「クルマはあくまで仕事の道具で、基本僕は無趣味ですよ」と工藤さんはいう。若かりし頃に額装の世界と巡り会い、独立後すぐ手に入れたダイハツ・ミラ・ウォークスルーバンや、1ナンバー・バンのT3トランスポーターやゴルフ・ワゴンといったフォルクスワーゲンたちが、ツールとして彼のお眼鏡に適ったクルマだった。

長野へ移住時に入手したVWのT3トランスポーター。

最近はこうした業務用車両をお洒落に乗ったり、遊びに使うのが流行っているけれど、工藤さんはそうじゃない。なにせ彼がクルマを選ぶにあたっての条件は、そうとうに厳しいからだ。大きな額や作業道具一式を運べる荷室のサイズと、絵画のための荷室の空調能力にはじまり、動力性、堅牢性、取り回しの良さ、コストと一筋縄ではいかない。そしてとことん調べて入手したら、とことん整備し、とことん使うのが工藤流だ。それは5人の息子たちや奥様のために買ったポロやルポも同じ。「クルマ選びで家族の声は一切聞かない」そうだから徹底している。

トヨタ・ハイエースや日産キャラバンなども候補に挙がらないわけではない。部品の入手や整備は、輸入車より遙かに楽だ。でもどこか本質的なところが欠けていて「安ければいいんだろう?」「こういう装備があったら便利だろう?」と言われているような気分になったという。ものづくりに関わる彼にとってT3トランスポーターやゴルフ・ワゴンは、つくり手の思いが見え、共感が得られるものだった。日々使うドイツ製の工具箱や木工用工具と同じく、徹底した安全性や合理的かつ機能的なところも彼の嗜好とリンクした。それにこの2台なら、どんなに疲れてヘロヘロになっても、乗った瞬間に「クルマが“お任せ下さい”って言ってくれる気がした」そうだ。

工藤さんが独立時に新車で買ったダイハツ・ミラ・ウォークスルーバン

ところが工具たちとは違い、クルマは流石に歳月を重ね、乗り続けると色々問題が出てくる。まず最初のミラは14万kmで限界に。T3トランスポーターは16万km走行後に200万円を掛けて大規模なメンテナンスを施し、最終的に24万kmまで乗ったが、修理に出しても改善せずに泣く泣く廃車となった。ゴルフ・ワゴンは17万kmで降りることになった。ディーラーや当時付き合いのあった専門店では、工藤さんの長く乗りたいという思いに応えられなかった。

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