2023.05.16

CARS

【海外試乗速報!】これが最良にして最後の内燃機関カイエン! フェイスリフトした新型ポルシェ・カイエンにオーストリア・ザルツブルグで試乗!

フェイスリフトした新型ポルシェ・カイエン。写真はカイエンS。

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隣の人はなにする人か……

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試乗会はザルツブルグの空港から始まった。私が最初に乗ったのは、カイエンのベーシック・モデル。

フェイスリフトなのでサイズはほぼ同じだが、見た目で大きく変ったのは、フロント・グリルがよりアグレッシブな印象のものになったこと。そして、ヘッドライトが最新のポルシェの流儀に従って4つのLEDを使ったデイタイム・ランニング・ライトを備えた新デザインのマトリックス・ライトになったことだ。その変更に伴って、左右のフェンダー部分の嶺が高くなり、ボンネットの形状も変っている。この嶺が高くなったことが結構大きな意味を持つのは、運転してみて良く分かった。911やケイマン、ボクスターのようなスポーツカーの運転席から見た風景を想起させるだけではなく、巨大なカイエンの左右のボディの見切りが圧倒的に良くなったのだ。

一方、インテリアはほぼ一新と言っていいくらい大きく変わっている。基本はタイカンのデザインを引き継いだ、最新のデジタル・インターフェイスを大幅に取り入れたもので、ついにメーターパネルは12.6インチのカーブのついた大型ディスプレイになり、5連メーターは完全に液晶表示のヴァーチャルなものになった。エンジン始動も捻るのではなく、ボタンひとつ押すだけ。シフト・レバーに至っては、センターコンソールからステアリング・ホイールの右奥に移動して、小さなクリック・レバーになっているから、最初はどこにあるのかさえ分からなかった。

この写真の個体はベース・モデルのカイエン。今回のフェイスリフトで最も大きく変ったのはインテリアだ。インパネとダッシュボードのデザインは、タイカンから引き継いだ最新のデジタル・インターフェイスを大幅に導入したものになった。大型ディスプレイは中央だけではなく、助手席の前にも装備される。

大ぶりなシートはスポーティかつラグジュアリー。

ああ、ポルシェよお前もか、などと言うのはやめよう。時代の変化とはこういうものなのだろう。ダッシュボードの中央には巨大な12.3インチの大型ディスプレイが備わり、すべての車両機能へのアクセスはこれをタッチすればすべてできるようになっている。さらに助手席の前にも、10.9インチのディスプレイがオプションで装備できるようになっており、車両機能へのアクセスや様々なパフォーマンス・データの表示のほか、なんとビデオ・コンテンツのストリーミングなども可能になっているのだ。しかも、この画面は運転席側からでは見えない仕組みになっている。むろん、ドライバーは運転に集中しなければいけないから当然とはいえ、隣の人が別の楽しみを享受する時代が来るなんて思いも寄らなかった。ちょっと淋しいかも。

大進化を遂げたPASM

なんて思いながら走り始めたのだが、空港の敷地を出るまでにはもう口元から笑みがこぼれていた、と思う。なにしろ、スーッと発進するところからクルマ全体がウルトラ・スムーズな動きを見せてくれただけではなく、重くもなく軽くもなく絶妙な滑らかさを持ったステアリング・フィールといい、オプションの22インチ・タイヤを履いているにもかかわらず、驚くほど当たりの柔らかい乗り心地といい、私の好みにドンピシャに仕立てられていたからだ。

これは素晴しい、と思いながら高速道路に乗って速度を上げ始めると、今度は路面に吸いつくような安定感のある走りを見せてくれて、また賞賛の声を上げそうになった。実は今回の試乗車にはすべて22インチ・タイヤ(ただし、新型のタイヤはすべて快適性に配慮して偏平率を下げ、ハイトを確保してある)とともにオプションのエア・サスペンションが装着されていたから、実際に高速走行時には自動的に車高が下がっていたのだと思う。実際、ドライブ・モードを切り換えると、スポーツやスポーツ・プラスでは車高が下がり、オフロードでは逆に上がるようになっていた。しかし、それを踏まえてもこれまで以上に乗り心地がいいし、直進安定性にも優れていて、なによりも足の動きが路面に対して驚くほど俊敏かつ正確な感じがしたのだ。

ポルシェ・カイエン

どうやら、その理由はダンパーにあるようだ。すべてのモデルにポルシェ・アダプティブ・サスペンション・マネージメント(PASM)が標準装備されるのだが、その可変システムがこれまでの1バルブから2バルブ式になり、伸び側と縮み側を別々に制御することで、大幅に精度を向上させたというのだ。その結果、この乗り心地と動きの良さを得ただけでなく、エアサスについては逆にこれまでの3チャンバーから2チャンバー式にして、軽量化やコスト削減を図るメリットももたらしている。

山道を走り始めると、その真価はさらに明らかになった。巨大なボディを持つにもかかわらず、ステアリングを切り込んでいくと、適度なロールを感じさせながら、まるでずっと小さなクルマのように軽快にコーナーを駆け抜けていくのである。先代より13psと50Nmだけパワー&トルクが増強されただけだから、決してそんなに速くなったわけではないのに、踏むとクォーンという音を響かせるエンジンの吹け上がりの良さとも相まって、運転していて気持ちいいことこの上なかった。

エンジンが際立つS

次に乗ったのはEハイブリッド。これは残念ながら、私にはあまり良さを見出すことができなかった。とにかく走り出しからして重い。パワステの設定も素のカイエンとはまるで違うくらいに重くなっているし、ステアリングを切り込んで行った時の動きも、良く言えば安定感のある重厚な感覚、悪く言えば鈍い感じがするのだ。電池の容量を上げたのと、すべての効率を見直したことにより、電気モーターでの航続距離が旧型の最大48kmから新型では90kmにまで伸びているのが最大のメリットなのだろうが、その恩恵は都会で通勤に使う人などには享受できるかも知れないが、アルプスの山道を走るのにはまったく役に立たない。これまでは時速14kmまでだったブレーキ回生を新型では2kmまで効くようにしたためか、逆にブレーキ・フィールが悪くなったのも気になった。私には過渡期のモデルとしか思えない。

ポルシェ・カイエンS・クーペ

ポルシェ・カイエンS・クーペ

最後にSのクーペに乗った。パワートレインで言うと、これが一番大きな変化を受けたモデルである。なにしろ、これまでの2.9リッターV6から4リッターV8に載せ換えられたのだ。その理由を担当者に聞くと、V6ではパワーを上げる限界まで来ていたこと、V8の方が余裕があって効率化を図れること、さらには米国からV8へのリクエストの声があったことを明かしてくれた。実際、乗ってみるとこれはエンジンが際立ったモデルだと思った。常にV8ならではのサウンドが聞こえてくるし、その低回転からのモリモリと盛り上がるトルク感は半端じゃない。しかし、その分フロントの重さを常に感じてしまう。カイエンのファンの中には、こういうパワーを期待する人も多いのだろうが、素のカイエンのような軽快感は持ち合わせていないのだ。

今回の新型の真骨頂は、より快適に、よりスポーティに、その振り幅を拡げたことにあり、その真価をハッキリと感じられるという意味でも、素のカイエンが一番だと私は思った。

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文=村上政(ENGINE編集部) 写真=ポルシェA.G.

■ポルシェ・カイエン
駆動方式   フロント縦置きエンジン4輪駆動
全長×全幅×全高   4930×1983×1676mm
ホイールベース     2895mm
車両重量        2055kg
エンジン形式     直噴V6DOHCターボ
総排気量        2995cc
ボア×ストローク   84.5×89.0mm
エンジン最大出力  353ps/5400-6400rpm
エンジン最大トルク 500Nm/1450-4500rpm
トランスミッション   8 段AT
サスペンション(前) マルチリンク/コイル(試乗車はエアサス)
サスペンション(後) マルチリンク/コイル(試乗車はエアサス)
ブレーキ(前後)    通気冷却式ディスク
タイヤ(前/後)255/55ZR20、295/45ZR20(試乗車は22インチ)
車両価格(税込み)    1198万円

■カイエンE-ハイブリッド・クーペ
駆動方式    フロント縦置きエンジン+電気モーター4輪駆動
全長×全幅×全高    4930×1983×1674mm
ホイールベース       2895mm
車両重量         2455kg
エンジン形式     直噴V6DOHCターボ
総排気量         2995cc
ボア×ストローク    84.5×89.0mm
エンジン最大出力(モーター/統合)304ps/5400-6400rpm(176ps/470ps)
エンジン最大トルク(モーター/統合)420Nm/1400-4800rpm(460Nm/650Nm)
トランスミッション    8 段AT
サスペンション(前) マルチリンク/コイル(試乗車はエアサス)
サスペンション(後) マルチリンク/コイル(試乗車はエアサス)
ブレーキ(前後)    通気冷却式ディスク
タイヤ(前/後)255/55ZR20、295/45ZR20(試乗車は22インチ)
車両価格(税込み)    1440万円


■カイエンS クーペ
駆動方式     フロント縦置きエンジン4輪駆動
全長×全幅×全高    4918×1983×1678mm
ホイールベース      2895mm
車両重量         2190kg
エンジン形式    直噴V8DOHCツインターボ
総排気量         3996cc
ボア×ストローク    86.0×86.0mm
エンジン最大出力   474ps/6000rpm
エンジン最大トルク  600Nm/2000-5000rpm
トランスミッション    8 段AT
サスペンション(前) マルチリンク/コイル(試乗車はエアサス)
サスペンション(後) マルチリンク/コイル(試乗車はエアサス)
ブレーキ(前後)    通気冷却式ディスク
タイヤ(前/後)255/55ZR20、295/45ZR20(試乗車は22インチ)
車両価格(税込み)     1644万円

(ENGINE 2023年7月号)

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