2023.09.08

CARS

ポルシェ911ターボの真実! 991フェイズIIに進化した911ターボはどんなクルマだったのか?【911誕生60周年記念『エンジン』蔵出しシリーズ#3】

キャラミ・サーキット

advertisement


それにしてもどうして南アフリカで国際試乗会を行うのだろう? という疑問が湧いた。ベントレーやジャガーなどがケープタウンなどで行ったことがあるのは知っている。南アフリカ共和国は今もイギリス連邦加盟国なのだし、公用語のひとつとして英語が使われているから、英国メーカーにとっては都合がいいのかもしれない。でもなぜにドイツのポルシェが、と思ったら、理由はキャラミ・サーキットの存在だった。

1960年代初めに建設され、国際レースの舞台のひとつとして、フォーミュラ1もシリーズの1戦として南アGPを組み込んでいた。南半球にあることから、まだ寒さの残る欧州では気候条件が思わしくない春に行われていたのを覚えている。F1は1980年代半ばまで走り、ブランクがあった後、92年と93年にも走った。キャラミでの最後のメジャー・レースはCカーによるものだったが、そこで勝ったのがヨッヘン・マスの駆るポルシェ962Cだった。しかし、その後、コースや関連施設の老朽化などを始めとする諸々の理由でによって国際的な檜舞台から遠ざかっていった。もちろん、当時の人種隔離政策がらみの政治的理由も大きかっただろう。



そうして忘れ去られていたキャラミ・サーキットは2014年半ば、競売に出され、それを南アフリカ最大のポルシェ・ディーラー(世界最大のポルシェ・センターも含む)を経営する、自身レーシング・ドライバーでもあるトビー・ヴェンター氏が競り落とした。そして、一部コース・レイアウトの変更、周回方向の転換などを含めた大改修を行った。舗装は全面やり直し。新たなコースとして生まれ変わったのである。

国際レース格式の最新の安全条件ももちろん満たしている。関連設備の整備はまだまだこれからといった状況で、今年半ばの完成予定というが、コース部分は出来上がったので、その内々のこけら落としということで、いわば身内となったポルシェが、試乗会を開くということらしい。とにかく、キャラミはポルシェ所縁の地となったわけである。因みに、『キャラミ』はズールー語で『私の家』の意という。洋の東西を問わず、高速車の公道テストがますます難しくなってきているなか、今後、ポルシェの国際試乗会はここを使う機会が増えるのではないかと思う。そういうわけで、少し長くなったけれど、詳らかにした次第である。


新しいキャラミ・サーキットは、訊けば、難しいアップ&ダウンの連続のなかに難しい中速コーナーが続くテクニカル・コースだという。ここで試乗会を開くということは、エンジンとシャシーに絶対の自身あり、ということだろうか。

ターボとターボSの違い

さて、本題の新型911ターボはどのようなクルマなのか。結論はこう。基本は全面的に継承しつつ、要所々々に最新技術を取り込み、細部まで念を入れて練り上げ、持てるポテンシャルを根こそぎ引き出ことを意図したクルマである。

最大の課題がパワー・アップである。エンジンの総排気量は3.8リッターちょうどのまま、新型ターボ・チャージャーを投入するとともに、気筒内直噴噴射圧をこれまでの最大140barから200barに引きあげるなどして、素のターボは540ps、ターボSは580psまで最高出力を引き上げている。これまでは制御系の仕様変えで作り分けていたが、今回からターボチャージャー・ユニットを専用品としている。ヴァリアブル・ベーンを備える排気タービンは同サイズだが、コンプレッサー側はターボS用の方が径が大きい。

変速機はこれまでどおり、7段PDKのみが双方に使われる。

もちろん、ターボSは今回もまた、“あれやこれや全部乗せ”の装備内容になっている。その結果、2台の日本での車両本体価格(税込)はターボが2236万円、対してターボSは2599万円と、その差は336万円もある。

新型911の“素のターボ”で新装キャラミ・サーキットを走る。新コースは改修に併せて、時計回りから反時計周りに変更された。電子制御ダンパー(PASM)を備えるターボの標準仕様の脚はきわめてしなやか。サーキット走行を前提にしたスポーツ・プラス・モードを選んでいても、しなやかにロールする。

公道キングに違いないターボ

現役レーシング・ドライバーの先導で新装キャラミを疾走するメイン・イベント。順番を待ってどの個体にするかを選ばなければならない。クーペ・ボディなのは変わらないが、ターボSかターボか。僕は1台しかなかったターボにまず乗ることにした。ブレーキは標準のスティール製が付いている。無線で細かにコース・レクチャーを続けながら、ペースはプログレッシブにどんどん上がっていく。3周目ともなると、ちょっとでも気を許すと、追走できなくなるようなハイ・ペースで引っ張る。完成したばかりのコース路面は鏡のようにスムーズで、もちろん、公道よりもずっと摩擦係数が高い。

そこをハイペースで走ると、911ターボは極めてしなやかなボディ・コントロール性能をこれでもかと見せつける。体感上ははっきりとしたロールを感じさせ、前後ピッチング方向にも察知するに十分な、けれど決して過大にならない姿勢変化が感じ取れる。動きが静かだ。まるで太極拳の達人のような、それは動きだった。もちろん、気を抜いて操作が雑になれば、動きの変化は速くなるが、柔らかな感触に包まれた滑らかな動きの基本は変わらない。これはハード・コアなマシンではない。

姿勢安定化制御装置(PSM)にはPSMスポーツ・モードが新設された。これはスポーツ・クロノ・パッケージのスポーツ・プラス・モードとは独立して作動し、より大きなスリップ・アングルを許す。派手なドライビングも楽しめます、ということだ。新型ターボでは特にターボSにおいて大きな意味を持つだろうが、シフトレバーのティップ・シフト方向が逆転して、GT3などと同じように、押してダウン、手前に引いてアップに変更されている。

頻繁にサーキット走行も楽しもうという向きにはきっと脚がより締まって電子制御ロール補正装置(PDCC)が標準で組み込まれるターボSの方が向いているに違いない。全開走行を楽しむには、この標準のターボは少しだけ硬さが狙いどおりに足りないのだろう。しかし、公道はサーキットとは明確に違う。例えば、ニュルブルクリンクにバチンと合わせ込んだ脚など、公道では硬すぎて、明らかにやり過ぎなものとなることを過去の幾多の例から、僕らは知っている。

ポルシェはロード・ゴーイング・モデルの脚を仕上げるのは、ニュルではなく、そこへ行き来するための公道で調整していくのだと、かつてポルシェの実験開発ドライバーから直接聞いたことがある。ターボの標準の脚は、それを裏付けるかのような絶妙な締め方というしかない。この寸止め具合が、凹凸や不規則に変化し続ける路面傾斜や目地段差やスプリット・ミューなどを寛容に飲み込む脚を作るのだ。

しかし、だからといってサーキット・アタックで破綻するのかといったら、ノーだ。よくキャリブレーションされた脚は、そこにバッチリではないけれど、しかし綻びは見せない絶妙な帯域のなかにきちんと収められているのである。新型911ターボは公道で、もし法が許すならば、とんでもない韋駄天ぶりを涼しい顔で見せつけることになるだろう。

「よぉーし、次はターボSだ」とターボから降りたら、なんと、全く想定外なことに、ターボでのサーキット・ランはその1回だけだというではないか。そんなぁ。ホテルとサーキットの間の一般道ルートにはワインディング路などなかったし、日本ティームに与えられた数台のなかに、ターボSは1台しかない。短時間の試乗チャンスで得たターボSの印象は、想像どおりのものだった。綻びはもちろん見せないけれど、バッチリではない。サーキット走行に焦点が合わせてあることを意識させる。

あ、そうだ! 忘れるところだった。新エンジンは、問答無用にパワフルだ。そして、新型911ターボは、それこそ驚異的に速い!

文=齋藤浩之


■ポルシェ911 ターボ 
駆動方式 リア縦置きエンジン4輪駆動
全長×全幅×全高 4507×1880×1297mm
ホイールベース 2450mm
トレッド前/後 1541mm
車両重量(DIN) 1595(1600)kg
エンジン形式 水平対向6気筒DOHC24V直噴ツインターボ
総排気量 3800cc
ボア×ストローク 102.0×77.5mm
最高出力 540ps/6400rpm
最大トルク 72.4kgm/2250-4000rpm
トランスミッション デュアル・クラッチ式7段自動MT
サスペンション(前) ストラット
サスペンション(後) マルチリンク
ブレーキ(前後) 通気冷却式ディスク(PCCB)
タイヤ(前) 245/35ZR20
タイヤ(後) 305/30ZR20
車両本体価格 2236万円

■ポルシェ911 ターボS 
駆動方式 リア縦置きエンジン4輪駆動
全長×全幅×全高 4507×1880×1297mm
ホイールベース 2450mm
トレッド前/後 1590mm
車両重量(DIN) 1595(1600)kg
エンジン形式 水平対向6気筒DOHC24V直噴ツインターボ
総排気量 3800cc
ボア×ストローク 102.0×77.5mm
最高出力 580ps/6750rpm
最大トルク 76.5kgm/2250-4000rpm
トランスミッション 
サスペンション(前) ストラット
サスペンション(後) マルチリンク
ブレーキ(前後) 通気冷却式ディスク(PCCB)
タイヤ(前) 245/35ZR20
タイヤ(後) 305/30ZR20
車両本体価格 2599万円

(ENGINE2016年4月号)
▶エンジン・バックナンバーおすすめ記事をもっと見る

無料メールマガジン会員に登録すると、
続きをお読みいただけます。

無料のメールマガジン会員に登録すると、
すべての記事が制限なく閲覧でき、記事の保存機能などがご利用いただけます。

いますぐ登録

advertisement

PICK UP



RELATED

advertisement

advertisement

PICK UP

advertisement