2023.09.23

CARS

【保存版】ポルシェ911とはどんなクルマなのか? 経営危機と社運をかけたタイプ964の誕生!【『エンジン』蔵出しシリーズ/911誕生60周年記念篇#9】

新時代を切り開いたタイプ964

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911誕生60周年を記念して『エンジン』の過去のアーカイブから"蔵出し"記事を厳選してお送りするシリーズ。9回目の今回は、991型911の登場を機に2015年6月号に掲載したポルシェ911特集から、「ポルシェ911原論」と題した901から991まで続く進化の歴史を紐解いたストーリーの2回目、964の登場からタイプ993までの大改革前夜の様子をお送りする。◆1回の「356から901、そして930までの黎明期の変遷」から読む場合はこちら!

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1988年、社運をかけたタイプ964の投入

924-944(-968)系や928は商業的には十分な成功を収められず、ポルシェは今一度原点に戻って、911の再開発を決意する。そして、経営に苦しむなかで生み出されたのが、タイプ964だった。新機軸に大胆に取り組み、911の進化は以後加速度的に速くなる。

RRレイアウトの限界を打ち破るべく、4WDの959が開発された。

2ペダル仕様成功の悲願はティプトロニックATで達成された。

911の延命を決断したポルシェは、964を投入するに当たって、ボディ・サイズや造形の基本は守りながら設計を一新し、サスペンションもストラットとセミ・トレーリングアームという基本形式こそ踏襲したものの、設計自由度の高いコイル・スプリングを全面的に採用するなど、ポテンシャルの引き上げを断行した。加えて、フルタイム4WDモデルを導入して、大トルクへの対応力と将来性の拡張を推し進めた。また、ティプトロニック・フルATの導入によって、悲願だった2ペダル仕様の設定にも成功する。964は911の新時代を切り開くことに見事成功したのである。


タイプ964で911再生の土台作りに成功したポルシェだったが、強大なトルクを捻り出すターボ過給モデルは2輪駆動のまま、リア・トレッドの拡大という処方箋を使い続けていた。その964ターボは最終的に3.6リッターエンジンから360psを無理なく引き出すに到る。最大トルクは自然吸気6リッター級の53 kgmにも達し、さしもの964シャシーでも限界に達する。乗用車の世界ではメルセデス・ベンツが先鞭をつけたマルチリンク式リア・サスペンションが80年代に浸透し、後輪駆動車の操縦安定性を飛躍的に高めることに成功していた。

type993

後ろ脚を刷新 1993年、タイプ993が登場

ポルシェはシャシーの抜本的な能力向上を目指して、新たにマルチリンク式リア・サスペンションを開発する。これを空力的な理想化を推し進めたボディに収めて、導入する。タイプ993は、大きな転換期を迎えるための準備でもあった。

ポルシェは1970年代に投入した大型フロント・エンジンGTの928において、マルチリンク式リア・サスペンションの端緒を開いたメーカーでもあったが、911のシャシー性能を根本的に引き上げるために、次世代911用に、後輪操舵も視野に入れたマルチリンク・システムを開発。大型のマウント用サブフレームも含めてアルミ合金で構成したこの新サスペンションは、それまでターボ専用だったワイド・トレッドを前提に成立するものだったが、自然吸気エンジンのカレラ・シリーズにも全面的に採用され、新世代モデルの993が投入された。これに伴い拡大されたリア・セクションのスペースを使い、排気系が左右独立して大容量化も果たした。

現行のタイプ991型にも使われているマルチリンク・サス。


993ターボは、959の再来のごとき内容を携えて登場した。

993は964時代から引き継ぐかたちで2WDと4WDがシリーズ化されたが、4WDシステムは遊星ギアによってトルクが固定的に前後アクスルに配分される静的軸荷重呼応型から、ヴィスカス・カップリングを使った前後アクスル回転差反応式のオン・デマンド型になり、前軸へのトルク配分を減らして、964で批判の対象になった2WDモデルとのハンドリング特性の違いを是正する方向へと進んだのである。

リアにオーバーハング・マウントする水平対向6気筒エンジンと2+2クーペ・ボディが神聖なイコンと化した911だが、シャシー能力の根本的な底上げに成功した今、残された課題は空冷(実質的には大量のオイルを使うドライサンプ式潤滑方式に依存する油例式でもある)エンジンをどこで諦めるか、ということだけになった。911の動的な感触を決定づける要の部分ではあったが、温度管理が圧倒的に有利になる水冷式への変更は、いつかやり遂げなければならなかった。

厳しくなる一方の排出ガス規制だけでなく、冷却損失の厳密管理によって熱効率を上げ、燃料消費率を引き上げるためにも、それは自明の理だった。ドライサンプ用オイルの湯温管理も容易になり、それは信頼性向上にも貢献する。
しかし、水冷化すれば、高出力エンジンに見合う能力を備えた熱交換器が当然必要になる。それは、空間利用設計を大改革しなければならないことを意味する。ボディの刷新を伴うことになるのである。

◆空冷から水冷エンジンへ 技術的ハードルの高い難題をポルシェはどう乗り越えたのか。さらなる進化の物語は「ポルシェ原論Part3」に続く!


文=齋藤浩之


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(ENGINE2015年6月号)

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