2023.09.19

CARS

プロサングエ誕生前夜 新たな世界を開いてみせたフェラーリ史上初の市販4輪駆動モデル、 FFとはどんなスポーツカーだったのか?【『エンジン』アーカイブ蔵出しシリーズ フェラーリ篇#2】

フェラーリ史上初の市販4輪駆動モデル、FFにイタリアで試乗!

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独自の4輪駆動が鍵

フル4座に加えて大きな荷室を備えるということは、キャビンが長いということに他ならない。だからシューティング・ブレイク風にルーフが長いわけだけれど、それはつまり、クルマ全体が長くなることを意味する。大 き な キ ャ ビ ン の 前 に は ビ ッグ・ボアのV12が載っているのである。しかも、そのV12は完全なフロント・ミドシップ搭載である。その結果、FFの軸間距離は2990mmにもなっている。ほとんど3mだ。この軸距はパナメーラより長く、ラピードとほぼ等しい。にもかかわず、FFの全長がその2台より6cmほど短く、612スカリエッティ並みの4907mmで収まっているのは、リアをショート・オーバーハングのハッチバック処理としたからだ。

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にしても、5m弱である。599より24cmも長いのだ。そして、最上級車に相応しい乗り心地を実現しながら、599に匹敵する運動性能を与えるというだけでも並大抵のことではない。しかも、それを全天候型の万能マシーンにまで拡張しようというのである。野望といってもいい。



だが、それが本当に達成されていた。驚嘆するほかないではないか。

チロルのワインディングロードを駆け巡ってみて、フェラーリの主張は誇張でもなんでもないことがわかった。それは599よりさらに快適で、時にそれ以上のハンドリング性能を見せつけながらコーナーの連続をすり抜け、雪解け水で冷たく濡れている屈曲路のタイトコーナーでも、路面を捉え続けて離すことがない。鼻先の動きは軽く、体感する重心は驚くほどに低い。こんなに長く大きなクルマがいったいどうして?

秘密は独自の4輪駆動にある。FFはリアに変速機を置くトランスアクスル方式を採用しているから、V12をバルクヘッドにギリギリまで寄せて積んでも、変速機が大きなセンター・トンネルを作って前席空間を侵食することがない。後席を設ける分だけ軸距が599より延びるだけである。だから、フェラーリが是とする、リアへより大きな荷重を配分するレイアウトは維持できている。FFの前後重量配分は47:53である。

でも、フェラーリFFは4輪駆動だから、リアに置かれたトランスアクスルから折り返して3m前のフロントアクスルへと動力を伝えなければならない。ちょうど日産GT‐Rのように。本来ならそのはずだ。



ところが、FFにはエンジンとリア・トランスアクスルを繋ぐドライブシャフトは1本しかない。常識からすれば4駆には見えないレイアウトになっている。それもそのはず、リアの変速機と前輪の駆動系は直接繋がってはいないのだ! フェラーリがPTU(パワー・トランスファー・ユニット)と呼ぶ前輪用駆動システムは、V12エンジンのクランク軸前端から直接、回転力を取り出し、前輪を駆動する。変速は? PTU内には前進2段、後退1段の専用変速機構が組み込まれている。そして、ディファレンシャル(差動機構)の代わりに2組の電子制御油圧多板クラッチが配置され、それが前後輪間の回転差の吸収と、主駆動輪であるリアが5速以上の時に前輪駆動を切り離す役目も担っている。そう、これは電子制御のオン・デマンド4WDで、1~4速を使っている時にのみ作動する。この機械構成にF1からの技術転用で世界最先端をいく車両運動性能統御電子プログラムを組み合わせて、制動時だけでなく駆動時にも全4輪へのトルク・ヴェクタリングというかたちで積極的な介入が可能なことを証明してみせたのだ。フェラーリならではのRWDライクな操縦性をいささかも損なわずに。

長大なホイールベースの不利をほとんど意識させない道理である。

試乗を終えて夕刻、ホテルへ戻ると、ほどなくピエロ・フェラーリがマラネロからヘリで飛んできた。そして、被災した日本への丁寧なお見舞いの言葉をくれた後で、FFに話題を移して、こう説明した。「スイス、アメリカ北東部やカナダ、そして北欧などといった過酷な気象条件や道路条件が待ち受ける国はもちろんですが、広大な国土をもつ中国やインドといった新しい市場でも遭遇する条件はタフです。FFはそうした国々で も、フ ェ ラ ー リ が 最 高 の ス ー パー・スポーツカーであることを証明するための挑戦なのです」、と。

文=齋藤浩之 写真=フェラーリ

フェラーリFFの中身はこうなっている

エンジン:直噴6.3リッターで660psを発揮

FFのノーズに収まるエンジンは伝家の宝刀、V12。エンツォ、599系に使われてきた6.0リッターユニットを基に排気量はボアを2mm拡げて94mmとし、75.2mmのストロークと組み合わせて6.3リッター(6262cc)としている。燃料供給はカリフォルニア、458に続いて直噴式を採用。200barの高圧噴射や2段階噴射などの最新技術が投入されている。圧縮比も12.3:1と高い。最高出力は599GTB用を40ps上回る660ps/8000rpmを発揮。比出力は105ps/リッターだ。最大トルクは69.6kgm/6000rpm。数字では一見高回転高トルク型と思うかもしれないが、実際には1000rpmですでに50kgm以上を捻り出し、それ が 回 転 上 限 の8000rpmまで維持される超ワイドレインジ型だ。しかも内部抵抗の徹底低減も寄与してトップエンドに到っても鋭さは微塵も失われず嬉々として回る。音触も素晴らしい。

フロントのアームは上下ともウイッシュボーン。ロワアームはL字型を使う。シンプルな構成だ。

フロントのアームは上下ともウイッシュボーン。ロワアームはL字型を使う。シンプルな構成だ。

リアは3要素構成。大負荷を担うのは、ロワAアームで2本のサブアームが角度を管理する。

リアは3要素構成。大負荷を担うのは、ロワAアームで2本のサブアームが角度を管理する。

脚:車高切り替え装置も付く
アルミ合金を多用したサスペンションはフェラーリの伝統どおり、4輪ダブルウィッシュボーン式を基本とし、カリフォルニアや458と同じく、リアはトー・コントロール・アームを加えている。マルチリンク式ということもできる。4輪駆動でラフロードや雪道を突っ走ることも可能になったのを受けて、FFは速度が40km/h以下の状況に限って前後のライド・ハイトを4cm上げることが可能。

変速機:7段デュアル・クラッチ式
シングル・ピースのドライブシャフトを介してトルクを受け取るトランスアクスルは、湿式の油圧多板クラッチを使うデュアル・クラッチ式の7段型。12気筒エンジンとの組み合わせは世界初。3軸式ギアセットはケース後端に収まる。電子制御のE-Diffは一体組み込み型になり、ユニット全体はきわめてコンパクト。トランスアクスルの製造はゲトラグ社が担う。電制ダンピング・システムは第3世代のSCM3となり、カーボン・ブレーキもパッドがさらに高性能なCCM3になっている。

前輪駆動装置:FF成立の鍵握るPTU
ドライバーが後輪の伝達許容範囲を超える駆動力を要求したときに前輪へのトルク伝達を行うというのがフェラーリの4輪駆動システムの基本。乾燥路で通常の走り方をする限り、ほとんどの状況で後2輪駆動である。前輪の駆動装置は前進2段。ローは7段DCTが1速と2速の時に、ハイは7DCTが3速と4速(上限速度は200km/hを超える)の時に選択される。5速以上では前輪駆動は介入しない。多板クラッチを介在させる完全なアクティブ制御なので、駆動時の空転はありえない由。

■フェラーリFF
駆動方式   フロント縦置きエンジン4輪駆動
全長×全幅×全高   4973×1953×1379mm
ホイールベース    2990mm
トレッド 前/後  1676/1660mm
車両重量(乾燥)   1880kg(1790kg)
エンジン形式     自然吸気直噴60度V型12気筒DOHC48バルブ
総排気量       6262cc
最高出力       660ps/8000rpm
最大トルク      69.6kgm/6000rpm
変速機     デュアル・クラッチ式7段変速機
サスペンション形式 前 ダブルウィッシュボーン/コイル
サスペンション形式 後 3要素マルチリンク/コイル
ブレーキ 前後    通気冷却式ディスク(CCM3)
タイヤ 前/後    245/35ZR20/295/35ZR20

(ENGINE2011年6月号)

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