2024.02.10

CARS

直噴フラット6+PDKを得て登場したボクスターSは、どんなポルシェだったのか? 3.4リッター・フラット6は絶品だった! 【『エンジン』蔵出しシリーズ/ポルシェ篇】

直噴フラット6とダブル・クラッチ式ギアボックス、PDKを得たボクスターS(2009年)

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やや性格の違うフラット6

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新型ボクスターの試乗は、パレルモ空港の駐車場から始まった。用意されていた試乗車はすべて3.4リッターの新型直噴フラット6を搭載するボクスターS。直噴化されていないもうひとつの2.9リッター新型フラット6を積む素のボクスターの姿が見えなかったのが、ちょっと残念だ。

PDK仕様のボクスターSの内装。旧型からの変更点は新デザインのシフト・レバー、シフト・スイッチを持つステアリング・ホイール、シルバーからブラックになったセンターコンソールまわりなど。


さらに言えば、試乗車はすべてダブル・クラッチ式トランスミッションの7段PDK仕様で6段MTはなく、オプションのPASM(アダプティブ・ダンパー)とスポーツ・クロノ(運動性能可変装置)に加えて、加速時22%、減速時27%のロック率を持つリミテッド・スリップ・ディフも装備していた。タイヤも標準よりひとまわり大きい19インチ。なかにはボタンひとつで排気音をよりスポーティに響かせるスポーツ・エグゾースト・システムを装備したクルマもあり、全体的にハード・コア方向に振った印象だった。

外観上の旧型との違いは、ケイマンS同様、ヘッド・ライトがダブル・チューブ式になり、バンパー左右のエア・インテークが大型化されたこと。テール・ランプの形状がよりシャープになったことなど。

オプションのアダプティブ・スポーツ・シート。新型ではヒーターに加えてシート・ベンチレーションもオプション装着可能に。


ズラリと並べられた中の1台に乗り込み、左手でキイを捻ると、ブォンという派手な雄叫びを上げて新型フラット6に火が入った。これまでより演出が過剰になったな、と思わず苦笑する。スポーツ・エグゾースト・システムをオンにすると、一段と大きな音があたり一面に響きわたるが、決して耳障りな音ではない。新型フラット6は、フェラーリのような甲高い音がするわけではないが、回せばフオーゥンという気持ちのいい高音に変化して、これまでよりずっと官能的なサウンドを持っていることを、走り始めてすぐに知らされた。同じ3.4リッターの新型フラット6を持つケイマンSも素晴らしいサウンドを響かせていたが、こちらの方がより官能的に感じるのはオープン・ボディを持つせいだろうか。

正確に言うと、ケイマンSとボクスターSでは、同じ3.4リッターでも、チューニングが少し違っている。ケイマンS用は最高出力が320ps/7200rpm、最大トルクが37.8kgm/4750rpmなのに対し、ボクスターSは310ps/6400rpm、36.7kgm/5500rpm。バルブ・タイミングを変えることで、ケイマンの方がよりスポーティな高回転重視型で、ボクスターはそれよりはクルージングを楽しめるような設定にしている、とはポルシェのエンジニアの弁だ。

下の列、右から3番目のボタンがスポーツ・エグゾースト・システムのスイッチ。


高速道路、一般道、峠道と様々なシチュエーションを走ってみて、新しい3.4リッターフラット6はつくづく素晴らしい出来映えのエンジンだと思った。とにかく、滑らかなことこの上ない。補器類などの余計な音が減り、サウンドもより美しく勇ましいものになった。中速域のトルクが厚く、アクセレレーターの微妙な操作に対して実にデリケートにリニアに反応してくれる。回せば回したで、5000回転から上の領域での音の変化や吹け上がり感ときたら、筆舌に尽くしがたいほど気持ちいいのだ。

ケイマンSの3.4リッターも911から始まった新型フラット6シリーズのなかで一歩抜きん出た傑作だと思ったが、ボクスターSの3.4リッターはそれを超える絶品だと私は思った。


容赦なくお尻が滑り出す

それにしても、我々のいた2日間、シチリア島の天気は目まぐるしく変化した。暴風雨が吹き荒れたかと思えば、急に太陽が照りつけたりする。

空港からホテルへ向かった1日目は、まったくオープンに出来ないような空模様。シチリアの道はタルガ・フローリオのコースでなくとも砂が浮いていたりして滑りやすいが、そこに雨が降った時は最悪である。滑るのなんのって、コーナーで少しでもアクセレレーターを踏みすぎれば、容赦なくお尻が滑り出す。LSDつきの新型ボクスターSは、これまでとは比較にならないほどにスポーティなセッティングになっていたのだ。サウンド同様、やや演出過剰なのではないかとも思ったが、その気になって走れば楽しさ抜群。あとは腕次第でどんな走り方でもお好きにどうぞ、ということなのだろう。

エンジニアによれば、PDKになってティプトロニックSの時よりもサスペンションのチューニングをよりスポーティに変更してあるという。ティプトロではリアのセッティングはMTと同じになっていたが、PDKではなんとMTよりもバネレートを高めているのだとか。どんな速度域での加速もMTよりPDKの方が速く、限界での負荷も高いであろうことを考えれば、ナルホドと頷ける。

 シャープな印象のテール・ランプ。下部にはディフューザーも装備する。


一方、乗り心地に関しては、どんなシチュエーションでも、明らかに良くなっていた。これまたエンジニアによれば、リアの空気圧を下げたこと、スプリングのアッパー・マウント部に新たに緩衝材を入れたこと、PASMの設定変更をしたことが大きく影響しているという。

全体として、昨年11月にスペインで開かれた試乗会で乗った新型ケイマンSとほぼ同じ方向の進化を新型ボクスターSも遂げていたと言うことができる。すなわち、よりスポーティになると同時にコンフォート性を増した。逆に2台の違いを言うなら、ボディ剛性が高くスポーツ志向もより強いケイマンSの方がハンドリングもよりシャープな味付けになっている。それに対してボクスターSは、ほんのわずかだがゆったりしている印象だ。サーキットを限界まで攻めるような走りよりも、幌を下ろして、ほんの少しスリリングな気分を味わえる程度の速度でワインディングを駆け抜けるような時が一番気持ちいい。その意味でもシチリア島の公道は、新型ボクスターの試乗コースとして最高の舞台だった。

新型ボクスターの日本でのデリバリー開始は春頃の予定だという。

新型ポルシェ・ボクスターのおさえどころ
●ケイマン同様、ボクスターに2.9リッターポート噴射、Sには3.4リッター直噴の新フラット6を搭載。
●ボクスターのMTは5段からSと同じ6段に進化し、両者とも7段PDKを選ぶことも可能に。
●オプションでLSDの装着が可能になり、よりアグレッシブな乗り味へと進化。

文=村上 政(ENGINE編集部) 写真=ポルシェ・ジャパン(小川義文)

■ポルシェ・ボクスターS
駆動方式 エンジン・ミド縦置き後輪駆動
全長×全幅×全高 4342×1801×1294mm
ホイールベース 2415mm
車両重量 1355kg
エンジン形式 直噴水冷水平対向6気筒DOHC
排気量 3436cc
ボア×ストローク 97.0×77.5mm
最高出力 310ps/6400rpm
最大トルク 36.7kgm/5500rpm
トランスミッション 6段MT/7段PDK
サスペンション(前) マクファーソン・ストラット/コイル
サスペンション(後)マクファーソン・ストラット/コイル
ブレーキ (前後)通気冷却式ディスク/アルミ製モノブロック・キャリパー
タイヤ (前)235/40ZR18 (後)265/40ZR18
車両本体価格  752 万円(MT)/799 万円(PDK)

(ENGINE2009年4月号)

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