2024.07.10

CARS

500馬力のスーパースポーツよりマツダ・ロードスターのほうが上の理由とは? モータージャーナリストの斎藤慎輔がズバリ指摘するND型ロードスターの魅力

マツダ・ロードスターSとロードスターRF VSを斎藤慎輔氏が乗り比べた。

全ての画像を見る
一連の動作を楽しむ

advertisement


今回もソフトトップ、RFの2台を乗り比べることとなったが、RFがAT仕様だったこともあり、エンジン排気量の差による絶対的な余裕と、ルーフを閉めた際の外からの音の侵入や耐候性を別として、ハンドリングを含めたダイナミクス領域においても、マツダの唱える人馬一体においても、ソフトトップに勝るところは見出せないのだった。



そう言えるのも、ロードスターの何が好ましいかって、最新スポーツカーとしては紛れもなく「速くない」、躊躇なく言えば「遅い」ことにあるからだ。なにより1.5リッターエンジンを搭載するソフトトップは、速くないが軽快、だけども軽薄ではないという絶妙のバランスにいる。

カタログを見ていたら、ロードスターの所作として、まるで同じようなコピーが書かれていたので、悔しいので表現を変えようかとも思ったのだが、どうにも思い当たらない。

ただ、軽薄ではない、という点に関しては、ND型で繰り返されてきた改良において、今回でようやくそこに達したと思えており、それこそ肝なので、ここは後ほど述べる。

5、600馬力といったパワーで周りを蹴散らすみたいなスーパー・スポーツも、静止から100km/hまで3秒を切るようなBEVも多く生まれている中で、こと公道に限れば、それらは瞬間芸的に刺激ある走りは出来たとしても、ドライビングの濃密度においてはロードスターのほうが遥かに上であると断言できる。



最新改良型NDの1.5リッターエンジンでは最高出力が3kw増強されるなど、マツダは性能進化にも手を入れてきたが、比較して乗らない限りは分かりにくく、そういえば高回転域でのパワーの伸び感がほんの少し高まったかもと思えるくらい。ただ、きっちりスッキリ7500 rpm まで回る。そういう細かな拘りこそが、今に至るロードスターを築き上げてきているのだ。

過給機が付いて、回さなくても速いエンジンが溢れている中で、タコメーターを睨みつつ一生懸命に回して、軽いタッチだが正確性と適度に剛性感を備えたシフトを手首の返しで動かし、クラッチを瞬時でつなぐみたいな一連の動作を楽しむことができるのも、それぞれにきっちりと設えたパワートレイン系があった上で、絶対的なトルクの小さい1.5リッター自然吸気エンジンなればこそ。

1.5リッターの直列4気筒エンジンはかなりバルクヘッドに近いフロント・ミドシップに搭載され、6段MTを介して後輪を駆動する。


誤解のないように記しておくが、その上でフレキシビリティは異様に高く、上り勾配の続く箱根ターンパイクにおいて、50km/hで走行している際に、余裕を感じる4速で走らせていたりすると、MT仕様でもメーター内に表示されるシフト・インジケーターには、5速あるいは6速の表示と上向き矢印表示が出る。それが適正ギアだから、というわけだ。

反面、RFに搭載の2リッターエンジンとATの組み合わせは、あまり感じ入るものがなかったというのが正直なところ。パワーやトルクの増加分は特に登坂時の加速力の差に明確に現れている一方で、少なくともこのATの場合、スポーツモードを選んだとしても、残念ながら期待したほどの変速の小気味良さやダイレクト感をもたらしてはくれないのだった。

味わい深さの深化

今回の改良ではエンジン制御を見直し、アクセル・レスポンス、特にアクセル・オフ時のレスポンスの在り方に注力したとのことだが、こうした点も、このATでは反映されにくいのは否めない。それ故にAT仕様にはLSDも装備されないわけだ。

そういう点でみれば、試乗したソフトトップのSも、ロードスターのベース・モデルとして、LSDを持たない、いわゆるオープンデフだ。
 
最新NDロードスターのソフトトップのMT仕様でLSDを備えないのはこのSだけ。しかも、今回の大幅改良の中での目玉のひとつが、減速時にも適度な差動制限力を与えるというアシンメトリックLSDの新採用だから、もう一台のRFのAT仕様とともに、ダイナミクスの深化あるいは変化を見てとるには、適さない仕様のようにも思えるところだ。



でも、私がNDロードスターで残念というより、気に入らないほどの領域にあった点にステア・フィールがあった中で、最新型ではステアリングのハードウェアそのものから大きく変えてきたことで、これまで繰り返された制御の見直しといったレベルとは異なる変化を遂げている。

これがあって、前記した「軽薄ではない」というところに達した感がある。それは、2021年末の改良において、リア・サスペンションのジオメトリーによる特性を活用し、旋回初期にリア内輪にごく微小にブレーキを作動させて、リア側の浮き上がりを抑制するKPCなる制御とのマッチングが、このステアリングの変更によって、ようやく得られたと思えたからだ。

KPC導入時は、それまでのND型の弱点であった、ブレーキング時やコーナー進入時リア側の接地感の減少、落ち着かず浮わついた感覚がだいぶ抑えられた代わりに、今度はそれまでのステアリング・センター領域のフリクションの大きさが災いして、ドライバーの意思とは関係なく、どことなく落ち着かないノーズの動きを増長したように感じていた。

ちなみにKPCは、左右輪の回転数差が作動要件なので、オープンデフ仕様のほうが明確に働く。しかも、Sはリア・スタビライザーも持たないのでロール角こそ大きめとはなるが、ロールの進行はスムーズだ。さらには新しいステアリング・システムによる直進性(感)の向上も伴って、「軽快だが軽薄ではない」と言えるに至ったと思えるのだった。

これまでは総体として世界にこれだけの「素晴らしいスポーツカー」だと言ってきたND型だが、今回の改良を経て、いよいよ個々の動きを探っても、そしてそれら一連の動きがもたらす心地よさや動きを、「速くない」「速すぎない」中に、じっくり味わえるものになったのだ。

ユーザーから要望が強いというソフトトップの2リッター高性能バージョンの投入も控えている中、速くないことが魅力というのもなんだが、ND型ロードスターは結構奥深いですよ。

■マツダ・ロードスターS
駆動方式 エンジン・フロント縦置き後輪駆動  
全長×全幅×全高 3915×1735×1235mm  
ホイールベース 2310mm  
車両重量(車検証) 1010kg  
トレッド(前/後) 1495/1505mm  
エンジン型式 水冷直列4気筒DOHC  
排気量 1496cc  
最高出力 136ps/7000rpm  
最大トルク 152Nm/4500rpm  
トランスミッション 6段MT  
サスペンション(前) ダブルウィッシュボーン/コイル  
サスペンション(後) マルチリンク/コイル  
ブレーキ(前/後) 通気冷却式ディスク  
タイヤサイズ(前後) 195/50R16  
車両本体価格(税込) 289万8500円  

■ロードスターRF VS
駆動方式 エンジン・フロント縦置き後輪駆動  
全長×全幅×全高 3915×1735×1245mm  
ホイールベース 2310mm  
車両重量(車検証) 1130kg  
トレッド(前/後) 1495/1505mm  
エンジン型式 水冷直列4気筒DOHC  
排気量 1997cc  
最高出力 184ps/7000rpm  
最大トルク 205Nm/4000rpm  
トランスミッション 6段AT  
サスペンション(前) ダブルウィッシュボーン/コイル  
サスペンション(後) マルチリンク/コイル  
ブレーキ(前/後) 通気冷却式ディスク  
タイヤサイズ(前後) 205/45R17  
車両本体価格(税込) 418万2200円  

文=斎藤慎輔 写真=望月浩彦

(ENGINE2024年7月号)

無料メールマガジン会員に登録すると、
続きをお読みいただけます。

無料のメールマガジン会員に登録すると、
すべての記事が制限なく閲覧でき、記事の保存機能などがご利用いただけます。

いますぐ登録

タグ:

advertisement

PICK UP



RELATED

advertisement

advertisement

PICK UP

advertisement