2023.09.12

CARS

ミドシップ・エンジン化されたレーシング・ポルシェ、911RS Rとは、どんなクルマだったのか? 田中哲也氏が見つけた答えとは【911誕生60周年記念『エンジン』蔵出しシリーズ#7】

911誕生60周年を記念して『エンジン』の過去のアーカイブから"蔵出し"記事を厳選してお送りするシリーズ。7回目の今回は、エンジンが初めてミドシップ化されたレーシング911、911RSRにレーシング・ドライバーの田中哲也氏がドイツのラウジッツリンクで試乗した2017年10月号の記事をお届けする。

ミドシップ・エンジン化されたレーシング・ポルシェ、911RSRにドイツのラウジッツリンクで乗る!

 
今まで様々なポルシェを駆ってレースを戦ってきた。996GT3Rでデイトナ24時間に参戦したし、996CUPではスーパー耐久で何度もチャンピオンを獲得した。997CUPでPCCJにも参戦した。


そんな僕に、信じられない話が舞い込んできた。なんと、今年のWEC(世界耐久選手権)に参戦しているポルシェ・ワークスの911RSRに試乗できるというのだ。今年のRSRはミドシップ・エンジンに生まれ変わったレーシング911だ。場所はドイツのラウジッツリンク。ここは、オーバルとインフィールドが複合されたレイアウトのコースだ。



試乗当日の朝、起きると、雷と激しく打ち付けるゲリラ豪雨。けれど、幸いにも天候は回復し、試乗する頃には真夏の日差しが戻ってきて、暑すぎるくらいの気温の中、ドライ・コンディションで走ることが出来た。

コースに入ると、まずは現役のワークス・ドライバーからコクピット・ドリルとアドバイスを受ける。シート・ポジションはCUPやGT3Rとほぼ同じイメージだが、より低く、かつセンター側に寄っている印象を受けた。シートは固定式で、ペダルを前後させて合わせる。

反転してリア・アクスルの前に移動したエンジンの前端はシートの背後に迫る位置にある。


コクピットで感心したのは、運転席前方のダッシュボード上に左右2カ所インジケーターが設けてあり、前後左右のブレーキ・ロックやトラクション・コントロールの状態を色別で光って教えてくれることだ。認識しやすい場所に重要度の高い情報がきわめて分かり易く表示される。

ドリルが終わって、いよいよコースイン。まずは2LAPの慣熟走行を行い、細かいポジションの微調整や確認を行ってから、いよいよテストを開始する。周回数はそれほど多くないが、出来るだけ速いラップ・タイムでのレポートをしたいので、少し頑張ってペース・アップすると、少し緊張した。しかし、ほどなくその緊張感から解放されて、どちらかというとリラックスして走れるようになった。その理由は、911RSRが物凄くスムーズで扱いやすく、神経質なところがないからである。

エンジンは、パワフルなのはもちろん、ピックアップもいい。フリクション感の少なさも印象的だ。振動も少なくて、扱いやすさは抜群だ。出力特性にピーキーなところがない。そして、背中のすぐ後ろにあるエンジンが放つサウンドはリア・エンジンのマシンと比較すると明らかに違っている。音量はずっと大きく、甲高い音質が特徴的だ。

強大なダウンフォース

何より感動したのが、動きのスムーズなサスペンションによるメカニカル・グリップの高さと、ダウンフォースの大きさである。RSRは路面に吸い付くように強力なグリップがあり、とにかくよく曲がり、よく止まる。フロントのグリップは強力無比で、特に低速コーナーのクリップ付近で舵角が増え、少し荷重がリアに移行してきた時にもフロント・グリップの変化が少なく、アンダーステアがなかなか出ない。

510psを発揮する4.0リッターの水平対向6気筒エンジンがリア・アクスルの前に搭載された911RSR。ホイールベースはリア・エンジンの911よりわずかに長く、2516mmある。空力付加物を除いたボディ本体の全長は4557mm。


GT3Rではブレーキングが必要な高速コーナーでも、ブレーキなしで思い切ってアプローチすることが出来た。コーナリング中も弱アンダーのイメージで走れる。バランスがいいのだ。リアがスライドした時の挙動変化も唐突なものではなく、コントロールしやすいのがありがたい。リア・エンジンのマシンと比較すると、ピッチング・モーションが少なく、大きな挙動変化も起きなくて、御しやすい。リアの重さを感じない。その走行感覚は軽快で、スタビリティの高い走りが可能になっている。

ブレーキにABSの備えはないが、制動力はとても高くて安定していた。踏力もGT3Rのように思い切り踏むという感触ではなく、どちらかというと軽く踏んでもしっかり止まるイメージだ。これは疲れないし、コントロールもしやすい優れものだ。

つまり、911RSRはコーナリング性能が明らかに高くなり、マシン・バランスが良くなっているのだ。

サスペンションは前後ともダブルウィッシュボーン式だ。

しかしこれは、エンジンの搭載位置がミドシップ化されて重量バランスが変化したことが理由の全てではない。エンジン搭載位置が前方に移動したことによってマシンの後部下面のディフューザーを巨大化することが可能になり、ダウンフォースが圧倒的に増大したことも効いている。マシンのグリップ向上や跳ねを防止することに大きな恩恵をもたらしていると感じた。リア・エンジンではオーバーハング下の空力部品の装着にかなりの制限が生じるが、ミドシップ化で邪魔物はなくなり、RSRは大きなダウンフォースを獲得出来たのではないかと思う。

こうして得たアドバンテージとドライバーに優しい様々なシステム、それらを総合して911RSRはGTレースの中心にいると実感した。

文=田中哲也

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(ENGINE2017年10月号)

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