2023.11.18

CARS

【保存版】電子制御漬けの退屈な新型車ばかりのなかで、これは新鮮な驚きだった! 「991型911カレラT」は、どんなポルシェだったのか? 【『エンジン』蔵出しシリーズ/911誕生60周年記念篇#11】

ENGINE 2018年7月号掲載「991型911カレラTは、どんなポルシェだったのか?」

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911誕生60周年を記念して『エンジン』の過去のアーカイブから"蔵出し"記事を厳選してお送りするシリーズ。11回目の今回は、991型911GT3RSの国際試乗会の際に用意されていた911カレラTに試乗した様子を掲載した2018年7月号の記事をお送りする。単なるニッチ・モデルかと思いきや、その走りは・・・。最近、992型でもラインナップされた2代目とぜひ比較して読んで欲しい。

2018年7月号「911 カレラの硬派軽量版“T”にニュル周辺で乗る! ピュアな走り好きのために」

最近のポルシェは実に商売上手だ。市場のニーズを敏感に察知し、痒い所に手が届くようなニッチ・モデルを出してくる。たとえば、タイプ997世代の2010年に911カレラ・シリーズに新設されたGTSは、かつての904カレラGTSから名をもらい、SとGT3の隙間を埋めるモデルとして登場。大成功を収め、人気グレードとして定着している。

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しかし昨年、今度はナロー時代の911Tに由来するカレラTが登場した時には、ポルシェといえども、これはやり過ぎではないかと思ったものだ。というのも、かつてのTはツーリングの頭文字を戴く純粋に走りを志向する人のための快適装備を省いた廉価版だったが、今度のカレラTはリア・シートを省くなどして軽量化しているものの、価格はカレラを上回り、むしろSとの間隙を埋めるものとなっていたからだ。

しかし今回、カレラTに乗る機会を得て、結論を言えば、これは廉価版ではないけれど、なるほどT=ツーリングと名乗るに値する純粋に走りを志向する人のためのモデルだと深く納得させられることになった。そのくらい、走り好きの気持ちをかきたてる、エモーショナルなクルマに仕立てられていたからである。



カレラとの違いは、それほど多くはない。370psの3リッターフラット6は同じだし、7段MTないしPDKのギア比も変わらない。しかし、カレラではオプションだった20mm車高の低いPASMスポーツシャシーやスポーツ・クロノ・パッケージ、スポーツ・エグゾースト、ショート・シフト・レバーなどが標準装備されるほか、カレラには設定のない後輪操舵もオプション装着できるようになっている。

その一方で、後席を省くと同時に遮音材も大幅に減らし、リアとリア・サイドの窓を軽量ガラス化するなどして、同じ仕様のカレラに対して20kgの軽量化を実現。さらに、フロントにリップ・スポイラーを装着すると同時にリアのウイングもより高く上がるものを採用して空力を最適化するとともに、20インチのタイヤ&ホイールを標準化して、グリップ性能も向上させている。


最初の試乗車は7段MT仕様だったが、エンジンをかけた瞬間から、予想外のワイルドなサウンドが室内に響き渡った。そして走り出すと、たった20kgの違いとは思えないような軽快な乗り味を持っていることに、さらに驚かされた。ステアリング・フィールが素晴らしくいい。まるでピントがピタッと合ったカメラのように路面の感触が手のひらに正確に伝わってくるから、運転していると楽しくて、走れば走るほどもっと走りたいという気持ちが湧いてくるのだ。

後席が取り外されるほかにも、ドア・オープナー・レバーがループに換装され、オーディオとナビのポルシェ・コミュニケーション・マネージメント(PCM)が非装着となり、シートも中央に軽量なテキスタイル素材を使ったものが採用されるなど、すべての装備品が軽量化とスポーティネスの向上のために考え抜かれたインテリア。ただし、後席とPCM は無償でオプション装着することも可能だ。写真はショート・シフト・レバーを備えた7段MTモデルだが、日本仕様は今のところ7段PDKのみとなる。

短いストロークでスコンと入るシフト・フィールも絶品である。電子制御漬けで自分が運転しているのかクルマが運転しているのか判然としない退屈な新型車が増えている中にあって、これは新鮮な驚きだった。


実は、次にPDKモデルにも乗ったのだが、こちらはオプションでわざわざ後席が取り付けてあって、音も大人しければ全体の走りも大人しく感じられて、MTほどの感動が得られなかった。Tをとことん味わうには後席はやせ我慢してでも付けない方がいいと思う。その価値はある。

文=村上 政(ENGINE編集長)


■ポルシェ911カレラT 
駆動方式 リア縦置きエンジン後輪駆動
全長×全幅×全高 4527×1808×1285mm
ホイールベース 2450mm
車両重量 1445kg
エンジン形式 直噴水平対向6気筒DOHCターボ
排気量 2981cc
ボア×ストローク 91.0×76.4mm
最高出力 370ps/6500rpm
最大トルク 45.9kgm/2150-5000rpm
トランスミッション 7段PDK
サスペンション形式(前) マクファーソン式ストラット/コイル
サスペンション形式(後) マルチリンク/コイル
ブレーキ 前後 通気冷却式ディスク(試乗車はカーボン)
タイヤ(前) 245/35ZR20
タイヤ(後) 305/30ZR20
車両価格(税込) 1432万円(2018年当時の価格)

(ENGINE2018年7月号)
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