後悔しない人生を大人になり、それがかなり難しいことを知った池田さんだったが、やはりポルシェ911を買おうと決意させたことがあった。「クルマ好きの父を看取ったときに、後悔のない人生をおくらなければダメだと思ったんです」ナナサンカレラの夢は夢として、池田さんは最も現実的な996のカレラ2を手に入れた。2014年、池田さん50歳のときだった。「実は996型がデビューしたときは、なんじゃこの目は? と思ったんです。本当にガッカリしました。でも時間が経ってみると、レトロフューチャーなデザインでいいなと思うようになったんです」憧れの911はガッチリとしたボディ、RRならではの後ろから押される加速感など、初めての感動を与えてくれたという。
「996のカレラ2は一生乗るつもりでいました(笑)。大好きでしたから、911の情報はたくさん集めました。すると、GT3のエンジンはル・マン・レーサー、GT1の水冷フラット6をもとにするレーシング・ユニットだとか、そんなに壊れないらしいとか、耐久性に優れているとか、自分に都合のいい噂も含めて(笑)、GT3の情報がどんどん膨らんでいったんです」乗りやすいGT3 996のカレラ2を購入してから5年後、風船のように膨らんだGT3への思いはついに破裂した。「996のGT3が来たときは、大丈夫かな? と思いました。僕はサーキットには行かないので、果たして使い道があるのだろうかと。ところが乗ってみたら、996のカレラ2より乗りやすかったんです。低速トルクが太いので。クラッチの繋ぎに神経を使わなくなりました」GT3が納車されると、早速730kmほどのロング・ドライブに出かけたそうだ。「東京から木曽、御岳山、飛騨高山、塩尻と回り、東京へ戻るというワンデイの強行ドライブでした。驚いたのは、家に着いたときです。身体がまったく疲れていない。GT3のシートは素晴らしいと思いました」
現在は平日の夜や日曜日の朝などに、ただ走るためだけにGT3の3.6リッター・フラット6に火を入れている。「僕はお酒を飲まないので、ドライブがストレス解消なんです。エンジンは5000rpmからすごくいい音がするんです。ル・マンを制したGT1の息吹を感じながら運転できるなんて、本当に幸せです。1800mmを下回る全幅のボディは扱うのには、ちょうどいい。ギア比も自分のフィーリングに合っているようで、シフトが楽しいです」 ちょっと古いクルマが好きだと言う池田さん。996型GT3のほかにメルセデス・ベンツE280ワゴン(1996)、同C180(2014)、ランチア・フルビア2C(1966)を持っている。「ポルシェも出来れば356が欲しいです。RRというレイアウトを進化させていったポルシェ911の歴史の原点に触れてみたいですね」走っているときは何も考えず、エンジンとの対話を楽しんでいるという池田さん。憧れと過ごす時間が明日への活力になっているのだろう。文=荒井寿彦(ENGINE編集部) 写真=茂呂幸正
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