2024.11.19

CARS

法が許す限り、自然吸気エンジンを捨て去るつもりはない! 進化して“S”になったアヴェンタドールはどんなランボルギーニだったのか?

フラッグシップのアヴェンタドールの後を継いだアヴェンタドールS

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よりスーパー・スポーツカーに

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2回目の試乗。さっきとはべつの個体だ。乗り込んでポジションを合わせ、ドライブ・モードがスポルトにあることを確認する。ピット・ロードを出てコースに合流。タイト・コーナーを出て、クルマの感触が変わらないことを確認しつつ、モードをコルサに。1回目より速い引率スピードになんとかついていきながら、スロットルを開けていく。マニュアル変速で行こう。と、シフト・アップの瞬間、ドカーンと強烈なショックが襲ってきた。最短50ミリ秒を豪語する変速機が瞬時に繋ぐと、駆動系にすごい衝撃が走る。少し乾き始めてきた路面のせいもあってか、それでもタイヤは路面に喰らいついて離れない。シフト・アップ、ドカーン。試しに自動変速に任せてみると、引っ張る引っ張る。レヴ・レインジを根こそぎ使う。ショックは少し減った。中途半端な回転でシフトアップせず、全負荷で上限まで回し、根こそぎパワーを引き出してからシフト・アップしろ、ということだろう。トロトロと走るんだったらコルサは使うな! と叱り飛ばされているみたいな気分だ。

ド派手なジニー・アクションが鮮烈だった先代と違い、新型の液晶メーターのコルサ・モードはレーシング・カー的に視認性最優先の冷静なものに変わった。

タイト・コーナーからの立ち上がり。スポルトほどお尻がむずからない。路面状況の違いのせいばかりではないようだ。まだひどく濡れている場所でも、リアは驚異的な踏ん張りを見せて、ただひたすらに前へ出る。トラクション最優先。遊んでいる暇はないんだよ、と言っているみたいだ。テールを出したいんだったら、スポルトでやれということなのだろうか。たぶん、そうだ。

EGOモードでは制御プログラムの組み合わせを自由に選べる。

ここ、バレンシア・サーキットには、長い直線はないけれど、さすがにこれほどの猛獣ともなると、軽く200km/hオーバーの速度になる。スタビリティが素晴らしい。路面に吸い付くような感触がある。遮二無二に空力開発を推し進めてきたフェラーリと違って、ランボルギーニは情感的スタイリングを優先させてきた感があったけれど、アヴェンタドールSは違う。見た目は前任機種と大筋で同じ。カウンタック以来の、これぞウェッジ・シェイプといったモチーフも変わらない。ディテールには戦闘機や蛇の毒牙をイメージさせる処理が取り込まれたり、それこそカウンタックを髣髴とさせるリアのホイール・アーチ形状が採用されたりして、われこそはランボルギーニなり! と全身で訴えるようなスーパーカー然としたスタイリングになっている。けれど、新型はそう見せておいて、空力性能が著しく進化している。ダウンフォースがすごい。その昔、カウンタックといえば、ノーズのリフトが怖くて、とてもじゃないけれど200km/h以上は出したくなかったことを思い出す。まさに隔絶の感がある。

破綻を一切来たすことなく挙動をコントロールするシャシーは電子制御4WDと4輪ステアに支えられ、並外れた高速性能をエアロダイナミクスが磐石のものとする。そこにあるのはスーパーカーではなく、スーパー・スポーツカーとしての動的本質の、驚くべき進化なのだ。



結局、天気はぐずついたままなんとかもって、4ラップの試乗を4回することができた。アヴェンタドールSの新機軸で目玉装備のひとつである第4のドライブ・モード、“エゴ”を試すところまではいけなかった。これは、パワートレイン(エンジンと変速機)、ステアリング(4輪アクティブ・ステア)、サスペンション(磁性流体ダンパー)という3つの可変要素を好みのモードの組み合わせで使えるものだ。とてもじゃないけれど、順列組み合わせを試す余裕はなかった。日本に来てからの課題として取っておこう。



サーキットから高速道路でホテルで帰る。夕方で交通量はけっこうある。ストラダーレ・モードにして自動変速でのんびりと走ると、アヴェンタドールSは、全身に漲る緊張を解いて、平穏な表情を見せた。ウラカン並みとはいかないけれど、良識ある市民を装うことはできそうだ。

ランボルギーニであり続ける

その日、話を聞くことができた研究開発部門取締役のマウリツィオ・レッジャーニ氏は、なぜデュアル・クラッチ式に変更しないのかという質問に答えて、こう言った。

「このパワートレイン・レイアウトのままデュアル・クラッチ式にすると、車幅が何十cmも拡がってしまう。非現実的です。ではなぜ、このレイアウトに拘るのかといったら、前後重量配分を理想化できるからです。変速機が後ろにあるウラカンはもっとリア寄りの配分なのです。それと、これはもっと大切なことですが、このレイアウトが、由緒あるランボルギーニであることの証として、認められていることです。他と違うということは何よりも重要なのです」

かつて、最初の復活ブガッティでEB110のパワートレイン開発を担当し、ランボルギーニに転じてムルシエラゴの開発責任者を務めた後、開発部門の総責任者となって技術面における長期的戦略を定め、推進してきたレッジャーニさんは、本物のスーパー・スポーツカーであるためには、どのようにクルマを進化させていかなくてはならないかを透徹した眼で見据えている。その一方で、スーパーカーであり続けるためには何を捨ててはいけないかということも誰よりもよくご存知なのだ。曰く、「法が許す限り、自然吸気エンジンを捨て去るつもりもありませんよ」

文=齋藤 浩之(ENGINE編集部) 写真=アウトモビリ・ランボルギーニS.p.A.

トップ・エンド回転域の充填効率を引き上げて40psを積み上げ、740psを叩き出すに到った自然吸気V12エンジン。
■ランボルギーニ・アヴェンタドールS
駆動方式 ミドシップ縦置きエンジン4輪駆動
全長×全幅×全高 4797×2030×1136mm
ホイールベース 2700mm
トレッド前/後 1720/1680mm
車両重量(乾燥) 1575kg
エンジン形式 60度V型12気筒DOHC48v自然吸気
総排気量 6498cc
ボア×ストローク 95.0×76.4mm
最高出力 740ps/8400rpm
最大トルク 70.4kgm/5500rpm
変速機 シングル・クラッチ式7段自動MT
サスペンション前後 ダブルウィッシュボーン
ブレーキ前後 通気冷却式ディスク(CCB)
タイヤ前/後 255/30ZR20/355/25ZR21

(ENGINE2017年4月号)

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