2024.02.17

CARS

C6はまるでサグラダ・ファミリアだ! シトロエン2台とスポーツカー2台を「整備して愉しむ」整形外科医オーナーの実験的自動車生活とは?

ユーノス・ロードスター(1996)とロータス・エキシージ(2020)、シトロエンC5(2008)&C6(2006)とオーナーの服部さん

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C5での実験の日々

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服部先生とシトロエンの縁は幼稚園時代にまで遡る。近所の病院の先生がハイドローリック・シトロエン乗りで、すでにクルマ好きだったから車高が上下するのを見て「なんだこれ!?」と驚いたそうだ。しかしクルマ・ライフはまずロードスターでスタート。そして大学卒業後、奇しくも幼少時代にシトロエンを見せてくれたあの先生が在籍されていた大学の医局へと進むことに。これは偶然なのか、はたまた運命だったのか。シトロエンの購入に至ったのはそのさらに後の、結婚してからだった。

「形は一番最初のオリジナルC5が良かった。でも乗ったらどこかハイドロらしくなくて。買ったのはちょうど2代目C5が発表されたタイミングでした。旧型のマイナーチェンジ後の在庫車があるというので“これ、下さい”ともらってきました。一番最初のより、ゆるくてふわっとしていて、いいじゃん、C5も変わったんだ、と思ったんです」

実はこのC5のLEというグレードは、ハイドローリック・システムが前後どちらの世代とも異なるシンプルな仕立て。外観は少々奇抜ながら、好き者が一目置く中身なのだ。

そしてこのC5から、服部先生の実験の日々がはじまった。

「このクルマって本当にこの性能なのか? という部分まで深く掘り下げて考えていくと、なかなかしつこく付き合ってくれる人は少なくて」



アライメントの専門家との出会いをきっかけに、先生はタイヤとホイールと車体の組み付け、空気圧、油脂類、電気の流れについて学び、それらがいかにクルマというものを左右するかを知った。壊れたから修理ではなく、整備でC5をより良く正しいものにしたい。先生の真摯なクルマへの思いに共感し、一緒にC5の実験をしてくれるプロフェッショナルたちは、少しずつ増えていった。優しい口調にときおり混じるざっくばらんな名古屋弁と、どんな分野にも興味を持ち、なんでも吸収しようとする情熱も後押しした。

このジャンルならあの人、そのクルマならあそこのお店。一軒一軒紹介してもらい、足を運び、クルマを通じて語り合った。複数の専門店とのやりとりは難しい面もあるけれど、どこでも長く上手くいっているのは先生のお人柄ゆえ。ロードスター繋がりですでに8年ほどの付き合いになるメカニックをはじめ、70歳台、80歳台の、長くクルマの整備の世界に携わってきた名人級のひとたちやその後継者ともご縁ができた。

こうしてC5とは15年、12万kmを共にした。足まわりの試行錯誤を重ね、先日は1速に入らなくなったAT内部もリフレッシュ。時々拗ねることもあるけれど、今は新車の時以上に気持ちのいい状態を維持している。


まるでサグラダ・ファミリア

ハイドローリック・シトロエンの実験は、1台だけに留まらない。「みんなC5よりいい、というから買ってみました」と、C6の最後の新車も手に入れた。ところが世間の評判と、服部先生の印象は違った。独自のスタイリングや凝った構造は「当時シトロエンが、こういうものを造れるのは最後だっていう強い思いがあったんじゃないかな」と理解はできたけれど、自分のC5と走りは別物だった。

リア・ガラスにはかつてのシトロエン正規販売店、渡辺自動車の古いステッカーをあえて選んで貼った。

「個体差もあるんでしょうけど、色々やっても完成形が見えないというか、まるでいつまでも完成しないサグラダ・ファミリア(笑)。乗り味もC5とは違うゆるさで、前後の動きもどうにも一体じゃなくて……」

設計年次が近く、ハイドローリック・システムという共通項こそあれど、車体もサスペンションの懸架装置も変速機も、C5の方が構造がよりベーシックなゆえに、新車から時間が経って耐久性の差が現れたのかも知れない。結局5万kmを超えた時点でC6はアーム、ブッシュ、足まわりの消耗品をすべてやり直し、ハイドロのポンプやABSユニットも交換。整備代は安い輸入車が、ゆうに買えそうなくらいになった。それでも、2台の違いを味わいながらの実験は終わらない。そして作業を終えたクルマを肴に交流することを、先生は何よりも楽しんでいる。

「C5とC6でいろんなことが起こる分は、ロードスターとエキシージがカバーしてくれています」

そう笑う服部先生は、お父さんが長期保管していたキャデラック・コンコースの路上復帰という、新たな課題にも着手した。これまでのつてを頼りに、またしても腕利きのメカニックと巡り会えた。はたしてこれが実用車になるか実験車になるか。先生のクルマを通じての出会いは、まだまだ続いていきそうだ。

文=上田純一郎(ENGINE編集部) 写真=阿部昌也

(ENGIN2024年2・3月号)

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