2025.07.12

CARS

ポルシェ911のビッグバンパーに乗り続けて32年 乗れば乗るほどクルマへの愛が深まっていく!

1988年式。エンジンは3.2リッター。32年ぐらいでは愛車のすべてはわからない。

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作り手の考え

大きなリア・ウィングは買ったときには装着されていたから、前オーナーが購入時に付けたものではないかと野口さんは言った。自分で改良したのはひとつだけ。フロントバンパーの下、ちょうど前輪の前あたりに空気をふさぐ蓋を付けた。

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「高速域になると下から入った風がフロントをリフトするんです。それが気になって塞ぎました」

それ以外はオリジナルで、野口さんはそこにこだわっている。

「いじらないのは、当時これを作った人の考えを知りたいということがあります。89年式からホイールが1インチ大きくなるんですけど、それにも理由があるんじゃないか。そういうことを考えるのが楽しいです」

バンパーやドア・ミラーがアルミで作られていることに驚いたりするたび、当時は単なる道具ではないものを作っていたことを実感するそうだ。

全長×全幅×全高=4300×1650×1300mm。ターボ・モデルのような巨大なリア・ウィングは前オーナーが付けたもの。「今日はエンジンが調子いいなあとかクルマとの対話があるんです」(野口さん)

昨年、ドイツ本国に行きポルシェをはじめメルセデス・ベンツやBMWのミュージアムを見学した野口さんは、深く感銘を受けた。

「歴史を見ることができてすごく良かった。当時の社会情勢も展示されていて、なるほどだからこういうクルマが登場したのかと感心しましたし、自分のポルシェがますます好きになりました」

自分のクルマのどこが一番好きですか?

「3速、4速で引っ張ったときのヒューンという吹け上がりの気持ち良さといったら、言葉に出来ないですね。当時日本はDOHCだ、4バルブだとか言っていたと思うんですけど、いいものをきちんと組み上げていったものには敵わないんだなと思います。作りがいいので長距離を走っても疲れません。ポルシェが数々の耐久レースで輝かしい記録を残してきたのは、瞬間の速さというよりもドライバーが疲れないからなんじゃないでしょうか」



乗れば乗るほど自分のクルマへの愛が深くなっていく野口さん。一方で最新のポルシェ911にはあまり興味がないという。

「水冷のポルシェには乗ったことがありません。993型に乗ったことがありますが、乗り心地がマイルドで驚きました。これじゃあ普通のクルマじゃないかと」

ではポルシェではないクルマ、憧れていたミッドシップのスーパーカーに買い換えようと思ったことは?

「ないです。このクルマの運転席に座ると落ち着くんです。自分との相性がいいんですね。別に速くなくてもいいんです」

さらに、古い911に乗っている人たちには自分にしか扱えないというプライドがあるのだという。

「昔、カーグラフィックTVで見たんですけど、ニューヨークに住んでいる日本人のお爺さんがフェラーリ250LMを普通に使っているんです。いやあ、なんてカッコイイんだろう! 自分もああいうお爺さんになりたいと思いました」

32年ぐらいでは愛車のすべてはわからないという野口さん。新しい楽しみを発見するために、これからもずっとシルバーの911と過ごしていくつもりだ。

文=荒井寿彦 写真=茂呂幸正

(ENGINE2025年6月号)

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